※にょた注意! 来襲編宣誓編から続きます。
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1.

 ジノ・ヴァインベルグは良い奴である。と、言うのが、一晩同じ部屋で過ごしたスザクの感想だった。
 第一印象が悪かったというわけではない。ただいきなりジェット機で学びの学舎に乗り付け、いきなりルルーシュに跪いて騎士になりたいと宣言、スザクよりもよほどルルーシュやブリタニアのことを理解しているような態度、宣戦布告、極めつけはスザクが年上であるにも関わらずタメ口。年功序列社会で生まれ育ったスザクはジノのそんな対応にイラっとしたものの、いざスザクの部屋で語らってみれば彼は非常に陽気で気持ちの好い男であった。ジノはスザクのことをよく尋ねた。得意分野、特に武道に関しては興味津々といった様子で、スザクがかなりの実力の持ち主であることをどういう訳か察したらしく是非手合わせ願いたいなあと口にした。不思議なことにこういう物は鼻が利くのか、スザクもまたジノと手合わせしてみたいと思ったのは男としての性だろう。ふとルルーシュの『犬みたいな奴』という言葉が思い浮かんだが、『スザクと似ている』という点は綺麗さっぱり思い出さなかった。
 そしてジノはルルーシュのことは一切話さなかった。もちろん会話の端々でルルーシュの名前は挙がった。けれど核心的なことは言わなかったし、スザクも聞きはしなかった。スザク自身がまだ状況を理解仕切っていなかったということもあるし、ジノもまたそれを察していた。先に宣戦布告したのはジノであったし、巡り合わせや運も一つだと彼は思っている。ただ、スザクがジノを好い奴だと思ったように、ジノもまたスザクを気に入った。スザクと同じ土俵で戦うことを許容したのは、ジノのスザクに対する好意であることには違いない。――或いは、余裕か。
 いずれにせよ、スザクとジノは何事もなく親交を深め、朝を迎えた。
 昨日にミレイに申し出たよう、アッシュフォード学園の見学をするために制服を着用し、スザクと並んでやって来たジノを待ちかまえていたルルーシュは、やはり騎士を携えるような皇女には見えず、スザクにとっては同じクラスの一女性徒にしか見えなかった。無論、特別な、という冠が付く。


「ルルーシュ、おはよう」
「ああ、おはよう」
 まだ登校するには早めの時間。朝練に励む生徒の本調子ではなさそうな声や動きを聞きながら、ジノを伴ってクラブハウスに訪れたスザクを出迎えたのはルルーシュ1人だった。長身のジノは目立つ。さらにアッシュフォード学園の制服を着て、学園内ではそれなりに顔を周知されているスザクと並んで歩く姿に送られた視線は多かった。
 学園を見学したいと言い、ミレイは許したけれど、一体どうするつもりかスザクは知らなかった。今日は平日だ。普通に授業もある。もちろんジノが見たがったのは普段の学生生活なのだから、状況に問題はないのだろう。と、ぼうっと考えていたら横に立っていたジノが一歩前に。
「おはようございます、ルルーシュさ」
「おはよう、ジノ。お前が今着ているのは何だと思う?」
 ジノに挨拶を皆まで言わさず、向けた笑顔は朝一番に浮かべるには随分と晴れやかな。
「え? っと、アッシュフォード学園の制服、でしょうか…?」
「正解だ。お前には今日1日、学園生活模擬体験をしてもらう。身も心も、年相応の学生を満喫するがいい」
「つまり?」
「様も殿下も禁止。俺が皇族であることを欠片でもちらつかせて見ろ。速攻、ジェット機共々日本から立ち退いてもらう」
「………イエス、ユア、ハイネス」
「次に同じ言葉を使ったらお前と一生会うこともなくなるな」
 にっこりと笑顔で告げるものだから、これにはスザクもジノにちょっと同情。先の言葉がブリタニア皇族に対する敬称であることはスザクも知っている。ルルーシュが皇族であるのだからその返答は正しいのだが、確かに日本の学校で耳にするには不釣り合い。が、彼女を前にしたら自然と頭を垂れてしまう、そんな雰囲気を醸し出しながら普段使い慣れているだろう返答を禁止と言うのだから、ジノの苦労はいくばくだろうか。もちろん、日本人であるスザクには推し量れるものではないけれど。
「本当は敬語も止めて欲しいんだが」
「それは勘弁して下さい」
「仕方ない……俺とスザクのクラスに1日転入生という形で会長が教師たちに話を通したが、実年齢をそのまま反映させるのが一番無難だろう」
「つまり……」
「ブリタニアでお前は俺の後輩」
「ルルーシュ、センパイ?」
「それなら敬語もさして不自然じゃないだろう? 馬鹿みたいな丁寧語は使うなよ」
「……ハイっ!」
 確かに尻尾が揺れていそうだな、と、スザクは思った。


 ――朝のホームルーム。
 突然現れた1日転入生に、そりゃもうクラスは浮き足立った。
 すらりと伸びた痩身の美丈夫。生粋の、見るからに血統書付きなブリタニア人。自らを語る声は朗らかで、見た人間を虜にする明るい笑顔。それだけでクラスを席巻するには十分だったのに、学園一人気者の副生徒会長ルルーシュ・ランペルージとただならぬ仲とあらばさらに興味は倍増だ。何故にそれが露見したかと言えば、単純にジノが自己紹介でルルーシュセンパイに会いに来ましたと馬鹿正直に自ら告げた為だ。ルルーシュが頭を抱え、スザクは持っていたシャーペンが使い物にならなくなった。
(どこぞ構いなく牽制するつもりか!)
 いや、それは非常に正しい措置なのかもしれないけれど。ブリタニア本国での状況は知らないが、少なくともアッシュフォード学園においてさえルルーシュは人気者だ。ジノのルルーシュに会いにブリタニアからやって来たという話が半日で全校生徒の知るところとなるくらいには。見事な牽制にもなる。ただスザクとしては昨日に引き続き今日までもと非常におもしろくない事態。
 ……もちろん、彼の席はルルーシュの近くに用意された。たまたま後ろの席が空いていたという幸運は、ジノの強運か。
 こうしてスザクにとって心穏やかならぬ1日は始まった。

――1限目、史学。
 アッシュフォード学園において、史学の授業は大まかに三種類を学ぶ。ひとつ、まさに拠点たる国家の日本史。ひとつ、学園の礎である国家のブリタニア史。そしてブリタニアを中心とした世界史である。
「チョンマゲとニンジャは学園の外に行けば会えるんですか?」
「残念ながら文明は滅びてしまったらしい」
(………日光江戸村でも連れて行ったら喜ぶかな)
 ちなみにアッシュフォード家が雇っている日本人のメイドが実は滅びた文明の末裔であり、その体術や飛び道具を扱えることは、ルルーシュはもちろんミレイも知らないことは余談である。(ついでにスザクの数代前の祖先の頭にはちょんまげが乗っていたことだろう)

 ――2限目、語学。
 言葉、というものは、その地域特有の訛りや癖が出るものだ。
 ブリタニア語が公用語として世界中で使われているこの時勢、会話で困ることはない。ただ読み書きや、細かいセンテンス、さらに古典の解読などは学校で習うもので。
「………殿下、随分とお言葉遣いが、………庶民に馴染みましたね……」
 とは、後になってルルーシュがジノに授業の感想を求めた時に返ってきた答えだ。
 一言喋ればお里が知れる。
 産まれてからどっぷりブリタニア王宮で育ってきたルルーシュの言葉遣いが、いかにロイヤリティであったかをスザクは知らない。
 市井に溶け込むように言葉遣いを修正したのはさすがに骨が折れたぞ。お見事です。まあな、ふふん。褒められて、鼻が高そうなルルーシュに、それはどうなのだろうとスザクは思う。どうやら彼女が褒められて喜ぶポイントは、若干、市井の庶民とはやはりずれているらしい。
 それはともかく、生まれは同じブリタニア。育った環境は遠からず。2人の間に見える理解という絆は、ロイドとの仲に見られるものとも少し形が違うような気がして。
 疎外感? 嫉妬?
 無論、感じないで居られるほど、スザクは人間まだできていない。

学園パラレル 転入編。


2.
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しばらくちょいちょい続きます。
きな子/10.09.11