ブリタニアでも由緒正しき家柄であるヴァインベルグ家は、どちらかといえば軍事的功績が大きく認められてきた。過去には皇族の専任騎士はもちろん、ナイトオブラウンズも輩出したことがある。家督を勤める当主や長子にはもちろん家を守る責務があったが、次男以下は割と自由が許される。こと、ヴァインベルグ家は過去に家督争いも起きたことのない、比較的おおらかな家風でも知られていた。
そんなヴァインベルグ家の五男坊。末っ子に当たる彼は、末っ子らしく非常に甘やかされて育った。
「末っ子も一人っ子も似たようなものだろう?」
とは、ルルーシュの言だ。
彼女の場合は異腹の兄姉に非常に可愛がられ、一方で妹を目に入れても痛くないという程可愛がっている。異腹のきょうだいは数知れないが、同腹は妹ただ1人と言うこともあってどちらかといえばルルーシュは姉気質だ。が、上を見ても下を見ても両手で溢れるほど数えられることには特殊な事例であること変わりなく。
彼女にしてみれば末っ子として可愛がられたジノも、日本有数の名家の一人っ子として大事にされたスザクも構われ気質は同じに見えただろう。
ルルーシュがスザクとジノを似ていると称した所以はここにもひとつ。
「んじゃ、士官学校は卒業したわけだ。ヴァインベルグ家の五男坊は随分と出来がよかったみたいだねぇ」
「どんなに優秀でもルルーシュ殿下に認めてもらわなければ意味はありませんよ、アスプルンド伯爵」
「その若さならラウンズの声も掛かったんじゃなあい?」
「その前にシュナイゼル殿下の元に挨拶に伺いましたから」
「意外と抜かりないね君」
「稀代の科学者と誉れ高い伯爵にお褒めに預かり光栄です」
このジノの厭味ともつかない科白にはロイドもうげぇと潰れたような声。
ぽんぽんと行き交う会話の応酬に、スザクはポカンと呆けたまま見るしかない。ルルーシュはといえば、何かしら思うことがあるのかだんまりだ。
――学生が青春を謳歌する聖域に突如として乗り込んできた自家用ジェット機。さすがに校内に降りてくれば何事かと部活動に励む生徒の野次馬や様子を見に走ってきた教師で一時騒然とした。
が、割合早く現れた生徒会長、且つ、アッシュフォード学園理事長の孫娘は、ポカンとする副会長と彼女の前に立つ長身の青年に見覚えがあり、素早く事情を察した。まさに学園の権力化している彼女は、先ず高らかにジノとの再会を喜ぶ素振り(貴族であればどこかしらで面識はあるものだ)で彼が決して危険人物でないことを周囲に知らしめた。続けて、ジェット機で乗り込んできたことを、なんと、誉めた。そもそもお祭り好き、即ち派手好きな生徒会長だ。ルルーシュに会いに来るためにジェット機を使うなんて熱いわねぇとおそらく半分以上は本音だ。もちろん、気持ちはわかるし心意気は認めるが、次はちゃんと連絡した上で乗り込むようにと釘を刺すことは忘れなかった。そういう問題ではない、という常識はこの学園では通用しない。そして理事長の孫娘であるミレイが認めてしまえば、例え教師だろうと苦言を呈すことはできない。――そもそも、苦言を呈することができる立場ほどの教師は、ジノのファミリーネームを聞いた瞬間に、苦言を呈することができる相手ではないことを悟るほどの教養がある。ミレイがジノの無茶を彼女の鷹揚な性質で許すという派手なパフォーマンスを見せたのもその辺に理由があったりなかったり。
帰宅した生徒も多い放課後だったこと、さらにミレイが曹操に事態を収束させた為に混乱もなく。
ジェット機を学園の裏手に移動させたジノは、事情を知る面々、つまりロイド、ミレイ、スザク同席の上、ルルーシュと念願の対面を薬品臭漂う保健室で果たしていた。
――無論、スザクにとって目の上のたんこぶは、ルルーシュに思慕を寄せる男には同様だ。
そんなこんなで、単身ジェット機ではるばるブリタニアから日本にやって来たジノにこの場の最年長でありルルーシュの保護者代わりでありジノと立場上も同等であるロイドが根掘り葉掘り嫌み交え事情聴取をしていた。
スザクとしては、ロイドとジノのやり取りももちろん聞き捨てならないものだったけれど、難しい表情を崩さないルルーシュのことも気になって仕方がなかった。
スザクの騎士になりたいと言う言葉は、無碍もなく冗談としても受け取られなかった。ならば、ジノの懇願は?
「………それで、お前はこの後どうするつもりだ?」
ルルーシュが口を開いた。それまでロイドと対面していたジノは真摯にルルーシュを見つめた。その向かい合った視線に嘆息したのはルルーシュだ。
「……少なくとも俺は学生を終えるまで騎士を持つつもりはないし、このまま後一年、……兄上が許してくれる限りはアッシュフォード学園を卒業しようと思っている」
「承知しております。シュナイゼル殿下にも伺っておりますし、ルルーシュ殿下にはこの学園で過ごす時間が必要なのだとも殿下は仰っておりました。私もそれは同じ思いです」
ルルーシュの我が儘ではあった。本来、皇族であれば他国の学校に通うことは難しい。けれどアッシュフォードという後見と、ロイドという保護者と、シュナイゼルの許しでそれは成された。甘えられる時に甘えなさいとは、少し年の離れた兄と姉の言葉だ。
「………わかっているなら、少なくとも俺はあと一年はお前に答えを返せない。一年経ったとして、答える保証もない。騎士は必要ないと、変わらないかもしれない」
「変わるかもしれません。それにルルーシュ様、私は一年待つことなど苦ではありません。あなたが騎士を必要とした時、私はあなたに真っ先に指名して頂ける人間でありたい。その為に、今、ここに居るのです」
一年だろうが何年でも待つ。ルルーシュが騎士を必要としたその瞬間に、ルルーシュの騎士に相応しい人間でいることをジノは宣言する。
「ひとまず士官学校は卒業したので、入軍します。シュナイゼル殿下にはルルーシュ様に一刀両断さえされなければ便宜を図って下さるとのことですし」
両断、されなかったですよね? と、ジノが上目でルルーシュを窺えば、彼女は若干呆れたような溜息混じり。
「………士官学校に入ると聞いたときは何を考えているかと思えば……――お前、バカじゃないのか?」
貴族である。何も自ら位の高くない皇女に下る必要もないだろうに。
これにはジノも笑った。
「あなたほど気位の高い皇女殿下を私は存じ上げません」
「……お前に何を言っても無駄だということがわかった」
「それでは」
「好きにしろ、と言う他ないだろう。お前のことだから後悔しても無駄だと脅したところで無意味なんだろう?」
「ええ、その通りですね」
「互いに一年の猶予はある。やはり騎士は必要ないと俺が判ずれば、俺は全力でお前を排除しようとする。それだけの覚悟はしておくことを助言するよ」
「その時は戦いますよ」
挑戦的なジノの反応と態度、そして目つきがルルーシュは気に入ったようだった。彼女もまた、目を細め、口端を上げた。
「楽しみにしておこう」
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転入編に続きます。
きな子/10.05.05