「え?お兄さん?…が、居たの?ルルーシュ…」
疑問符ばかりを掲げる相手。問われた方は「ああ」と首をひとふり。
驚いたように目を丸くしている幼馴染みを見て、ルルーシュは今の自分の状況がやはり妙なのかと実感する羽目になっていた。
「それで、これからどうするつもり?ルルーシュ…」
一頻り事情説明をされた後、スザクはルルーシュに膝を突き合わせて聞いた。そもそも異母兄到来から早々に居住を彼の自宅に移されたルルーシュは、その間、世話になる予定だった幼馴染みに『急遽、予定変更。引っ越しはなしだ。』の一言メールしか送らなかった。正しくは忙しすぎて送る暇がなかった。
無論、幼馴染みたるスザクはどういうことかとメールもしたし電話もした。が、取り合う余裕もなかったルルーシュは謝罪をしながらも詳しい話は学校ですると言ったきりになってしまったし、スザクの方もそう言われては待つしかなかった。
漸く週末が明けて話を聞けば、突然出現した異母兄の存在。ルルーシュが知らなかったのだから当然スザクが知る由もない。降って湧いたような事態に混乱の極みを覚えたのは、何もルルーシュだけではなかっただろう。
しかもスザクは今聞いた。初めて聞いた。責めるわけではないが、話を聞かなければ納得できない。
「どうするも何も、兄さん……ああ、まだしっくりこないな……いや、何でもない。うん、兄さんの所に世話になることになったから、スザクの所に居候する話はなかったことにして欲しい」
済まないなと謝ればスザクはそれでも不満顔。
「……せっかく片付けしたのに」
「片付けたのは殆ど俺だろう」
思わず吹き出しながらそう言えばスザクは「それはそうだけど…」としゅんと項垂れた様子。そんな相手を見て、ルルーシュもまた申し訳なさはある。あまり広いとは言えない部屋に居候させてもらう予定が突然なくなった。勿論ルルーシュに非はないのだが、いろいろと準備に手間をかけた後だったから、やはり悪かったとは思う。
「……別に僕のとこなら構わないんだよ?ルルーシュと暮らすのなんて今更だし、何もわざわざ会ったばかりのお兄さんのところに行かなくても……」
「いや、俺もそうしたいのは山々なんだが……どうにも、一筋縄じゃいかない人みたいで、な。どう考えても俺は荷物になるとしか思えないんだが、あの人も譲らないんだよ」
「それって大丈夫なの?危なくない?」
本気で心配しているらしい幼馴染みにルルーシュは苦笑い。但しルルーシュは、確かに、と思う一方で、おそらく心配は無用だろうと根拠のない思惑も抱いている。言葉を選びながら開く口は、慎重だった。
「…一応、姉さんの方にも確認したんだが、あの姉さんが相当信頼している相手みたいだから、多分大丈夫だろう」
「お姉さんってナナリーを預かってくれた?」
「ああ。ナナリーもだいぶ良くしてもらってるみたいだ。さっき中等部に行って会って来たんだが、今はユフィと同じ部屋で寝ていると喜んでた」
「そっか。可愛がってもらえてるなら良かったね、ルルーシュ」
ルルーシュがスザクの言葉に対してあまりにも安心したように――嬉しそうに、はにかみながら――笑うものだから、その点に関しては全く問題はないのだろうとスザクは思う。こと、妹のことに関しては全て態度に出るのがルルーシュだ。古い付き合いのスザクがその様子を察することは難しくない。
むしろスザクが心配なのはルルーシュ本人のことだった。
「………それで、そのお兄さんのことだけど…」
「ん?ああ、だから大丈夫だって。いざとなったら逃げ出すなり何なりするし」
「………」
逃げ出すような事態になってからでは遅いのだがそこのへんをわかっているのだろうかとこの幼なじみはと心配。だというのに、当人は「だからそんなに心配しないで大丈夫だって」と笑うものだからスザクは胸の内には不安が積もるばかりだ。
「……でもルルーシュ。その、シュナイゼルさん?…お兄さんとは、初対面なんだろ?そんな人と一緒に生活なんて……」
いくら異母兄だろうと、十数年も会っていなければただの赤の他人でしかない。しかも兄弟といっても半分しか血は繋がっていないのだし、道理に合わない。
そんな相手よりもずっと一緒に居た自分の方が彼の力になれるのに、と思う気持ちもスザクにはある。どちらかといえば、こちらの方がきっと大きいのだ。
「悪くない、人だ。むしろ……」
「むしろ?」
「……いや。とにかく大丈夫、お前が心配することはないから」
途切れた言葉が流れてしまったことに不満そうにスザクは口を尖らせた。しかし当のルルーシュは苦笑いするだけ。
何かあったら直ぐ相談する。だからそんなに心配しなくていい。捲し立てるように話を終わらせてしまった相手にスザクは不服が大いに残ったわけだが、ルルーシュがクラスメートに呼ばれてしまえばどうしようもない。
残されたスザクは自分の席に着いたが、不機嫌な様子を隠していなかった。盛大な溜め息を吐きながら、今は居ないルルーシュの席を横目で見る。
(……僕だって君の力になれるのに)
ただ経済力があるだけじゃないか。内心で見も知らぬルルーシュの異母兄に悪態。
今日、帰ったら本当はルルーシュが自分の家に来るはずだったのだ。ルルーシュの母が亡くなってしまったという状況で不謹慎だったかもしれないが、彼が来れば家事炊事は随分と楽になったろうし、何よりも生活が楽しくなるだろうとスザクは思っていた。スザクにとってルルーシュと暮らすことは他人と暮らすようなストレスにはなりえなかった。
それが突然なくなってしまった。スザクにしてみれば楽しみが潰されてしまったのだ。
詰まらない気分になるのも仕方ない。それと同時に、初対面と言っていた異母兄に頼っているルルーシュがほんの少し恨めしい。寂しい。
スザクは胸のもやもやを打ち消すように机にうつ伏せて目を閉じてみたが無駄だった。
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きな子/2007.07.28