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06.派生。時系列はだいぶ後ろ。ルルーシュ17歳前後。
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「問題はぁ、ランスロットのデヴァイサー。よりによってあの枢木スザク君が一番適合率高いっぽいってことなんですよねー」
ここに第三者が居たならばその口調に眉を顰めるか或いは改めるよう忠言したかも知れないが、生憎とそれを諫める人間はいない。
ロイドの『報告』にシュナイゼルは泰然とした態度を変える様子はない。しかし付き合いの長いロイドにしてみれば、その内情を推測することは容易いことでもあった。
「まだ当人を乗せても居ないし、会っても居ないのだろう?」
決めつけるのは尚早ではないか。暗に認めたくはないのか、尤もなことを問うシュナイゼルにロイドは目を細めて笑う。
「残念なながらぁ、僕の勘!当たりますよぉ?多分彼以上にランスロットを乗りこなせるパーツは見つからないんじゃないかなぁ」
それはある意味で何ともいい加減な答えではあったのだが、シュナイゼルにそれ以上ロイドの言葉を否定する素振りはなかった。言葉にはしないがロイドの慧眼をシュナイゼルは信頼している。ロイドがそう言う以上はこの件に関してシュナイゼルが口出しするつもりはないし、彼がそうと決めたのならば覆らないことも把握している。ならばシュナイゼルが何に口出しをするかと言えば。
「では君には特派ごと、エリア11に行ってもらおう」
ロイドはシュナイゼルの提案に眉尻を下げた。予期してなかったと言えば嘘だけど、かといってそれがロイドの望みかと言えばそれも否。
「やっぱそうなっちゃいますー?できれば本国から動きたくないんですけどぉー」
「いいではないか。エリア11はサクラダイトも豊富だし、デヴァイサーも現地で調達できるならば君の実験には事欠かないだろう?」
「ルルーシュ殿下が居ないじゃないですかぁー」
不満と言わんばかりの声にもシュナイゼルは笑顔で返す。
「ならばルルーシュに特派で枢木君とばったり偶然の再会。あの子のトラウマを蘇らせてもいいと?」
「それはー……」
むぅ、と口を噤むのはロイド。
「できない相談だろう。君の選択は2つ。ひとつ、真っ当に職務を果たすか、ひとつ、デヴァイサーを諦めて本国にて研究を続けるか」
「てゆーか、僕に選択権なんてあるんですかあ?」
じとりとシュナイゼルを睨む視線には懐疑が含まれている。結局は全部、彼の思う壺だとロイドは常々思っていたのだが、それでも結局こうして未だにシュナイゼルの下に居るのは、つまり利害が一致するからであって。
今回の件とて、それは変わらないのだろうという予感がひしひしと。
「そうだね。私としては彼をデヴァイサーにするついでにエリア11に足止めしておいてもらえるとありがたいな。何事も不測の事態を防ぐ為には、目の届くところに置いておくのが一番だろう?」
「あーはいはい。わかりましたよ。首輪でもかけときゃいいんでしょうー」
投げ遣りに答えながらも、ロイドは溜息混じりに「救いはこれがルルーシュ殿下の為って事ですかー」と呟き。
「ああ、くれぐれもデヴァイサーに関してはうっかり漏らさないように気をつけてくれたまえ。出立の話も、エリア11の話題にはあまり深入りさせないように頼むよ」
「あんまり過保護すぎるのも良くないんですよぉ?まあ、僕も気をつけますけどねぇ。アフターケアはそちらにお任せします」
力なく手を振りながらロイドは肩を落とす。元々姿勢は悪かったが、今は心の底から脱力しているのだろう。
「あーあ…これでしばらくルルーシュ殿下とお別れなんて、僕も損な役ぅー」
「ははは。その分、成果を期待しているよロイド」
ええーええーと答えるロイドの声には自棄といった色も含まれていた。
ふらふらと覚束ない足取りで立ち去ろうとする背中をシュナイゼルは見送りながら、さて事は動き出したかと思い浮かべるのは今後の算段。彼の第七世代KMFが完成するのはシュナイゼルにとっても歓迎したい事だったが、まだ障害は多そうか。それもデヴァイサーからして、何とも厄介な存在が浮上したと思わずには居られない。
シュナイゼルは自分の補佐に当たっている異母弟を思い浮かべた。手放しがたい存在を実際に手放さない為の苦労は、思いの外大きいのだろう。
そして全て自分の思い通りにいくと思うほど、シュナイゼルにも余裕はない。
これが数日前の話だった。
「ルルーシュ。どうかしたのかい?」
呼ばれた当人の反応は鈍かった。顔をあげて相手を認識するまでに数秒。いつもの彼とは思えない反応に、しかしシュナイゼルには思い当たる節があった。
「兄上…」
「ロイドから聞いたのかな?」
単刀直入に聞けばルルーシュの反応はまた顕著だ。異母兄を凝視する瞳は揺れている。その中に蠢くのは、おそらく未だ彼を戒める記憶。
「……エリア11に行くと、聞きました」
「あまり思い出したくない場所だね。…お前にとっては、特に」
ビクリと肩を竦ませる。しかし少しばかり黙ったルルーシュは緩く首を振った。
「いえ。あそこは…、何があっても忘れられない場所ですから……」
薄く刻むのは微笑。生憎とシュナイゼルはルルーシュが何を思ってそんな笑みを刻むのかはわからない。空白の時間と己の力足らずさを見せつけられたような気がした。
「……ルルーシュ」
踏み込んで、一歩。しかしルルーシュは首を横に振る。無意識だろうが、そこには拒否の色がある。
過去に傷を負っているルルーシュに対して、強引に踏み込むこともできまい。歯痒く思うこともあれば、これでいいのだと思わないこともない。この度に足踏みしているシュナイゼルに気付くことなく、その間にルルーシュは記憶の闇からいつの間にか抜け出す。
「それよりも兄上。まだエリア11は安定していないと聞いてます。そんなところに特派を派遣して大丈夫なのですか?」
その声色に浮かぶのはおそらく特派に対する心配と現状に対する懸念の半々だろう。既に己を悲観する色は見えない。
シュナイゼル直轄の特別派遣嚮導技術部は私兵に近いとはいえブリタニアの最先端技術のいわば中枢である。そのような部隊を指揮官から遠く離れた島国に送るのは些か危険ではないか――技術・情報の流出、予期せぬアクシデントといった不安材料は大いにある。現状を正しく把握していたルルーシュの懸念はあながち外れたものではない。
しかしシュナイゼルはいつもの穏やかな笑みを口元に浮かべた。
「お前の心配もわかるが、大丈夫だよ。…というより、実際に資源と状況の揃った場所に行った方が効率が良い段階まできたからね」
「それではランスロットの実験を本格化させるということですか?…しかしあれはまだパイロットが見つからないと…」
「ロイドいわくデヴァイサーというらしいがね。…うん、その件に関してはまだ思案中らしい。向こうで適合する人材を探すのも手だろうということもあって」
「本国の方が優秀な人材を集めやすいのでは?」
或いは本国に連れてくればいいのではないかと問うルルーシュにシュナイゼルは苦笑。ルルーシュにしてみれば純然たる疑問なのだろうが、後ろめたさを持っているシュナイゼルはどうしてもやりにくいと感じずには居られない。
「…いや、いくらブリタニアの軍人といえど本国に連れてくるには少々難しい場合もあるからね…―――」
その含みのある物言いに首を傾げたルルーシュだったが、すぐに異母兄が何を示しているのか思いついたのか。若干、苦い顔をしながら「名誉ブリタニア人……」と呟いた。
シュナイゼルはご名答と言わんばかりに頷く。
「彼らを本国に置くのはあらゆる面で不都合が多いからね。そのせいで実験が滞れば本末転倒にもなってしまうだろう」
「……そう、ですね」
ルルーシュは『名誉ブリタニア人』に良い顔をしない。それは例えば彼の異母姉兄や純血派と呼ばれる愛国者のような者たち、或いは『ブリタニア人とナンバーズは厳格に区別されるべき』という国是から多くのブリタニア人が彼らを蔑む様とは少々異なる。
ルルーシュはむしろ『名誉』をもってして『ブリタニア人』たることを厭う。強者たるブリタニアに忠誠を誓い、母国の国籍を捨てた名誉ブリタニア人がルルーシュは気に食わない。それはむしろ国逆に近い思想であったが、ブリタニアの最上の地位に近い皇族という立場ながらブリタニアをひいてはその頂点に立つブリタニア皇帝に憎悪を抱いているルルーシュにしてみれば当然といえた。
「ではロイドは名誉ブリタニア人の中からデヴァイサーを選ぶつもりなのですか?」
「……いや、その可能性も視野に入れて研究を続行するというだけだ。まだ決まったわけではないし、何せエリア11のサクラダイトの量は豊富だからね。それだけでも赴く価値はあるし、そもそもエリアに派遣しての研究は最初から決められていたことなんだよ」
「……まぁ、特別派遣というくらいですから、そうですよね……」
なんとも間抜けな応答になってしまったが略称ばかりで呼んでいたために特別派遣嚮導技術部という正式名称をどうにも軽んじていた節があった。
研究色という印象が強かったが、基本的に技術部は軍という扱いでもある。無論、有事の際は彼らにも出動する義務はある。
「ではテロ等の動きがあった時は…」
「うん。実戦に投入できるかもいい実験になる。……まあそれもデヴァイサーが見つかったら、の話だがね」
「見つかるのでしょうか?」
「本国の軍人にはなかなかロイドの希望に叶う者はいなかったようだ。なら新しい土地で探した方が可能性は高いと思わないかい?」
「……それもそうですね」
漸く納得の色を示すルルーシュにシュナイゼルは見えない位置から笑みをこぼす。彼が何を不安に思っているかはわかりきっていたことだ。ロイドいわくのアフターケアは最後まで怠ってはならないだろう。
「安心しなさい、ルルーシュ。何も彼らは前線に出るわけではないし、エリア11の総督はクロヴィスだ。あの子の下の者は極端な者も多いが優秀であるのも事実。それにロイドにはセシルさんが付いているから、そう無茶はしないだろう」
だから何も不安に思うことはない、と、小振りな頭を撫でればルルーシュはほっと肩の力を抜いたのだろう。
そうですね、と呟いた顔はまだ少し堅さが残っていたが随分と顔色もよくなっている。しかし尚色濃く陰があるのは、僅かばかりの間身を置いていたその地を思い出してか。
―――果たして、その記憶の中に一時を共に過ごしたという少年が留まっているのか。
ロイドに見せられた一等兵のデータを思い出してシュナイゼルは胸の内に痼りを覚える。しかしそれを当人に聞くことは叶わない。
「ランスロットが動くのならば、それは楽しみですね兄上」
その表情には少しばかり無邪気な笑みも混ざっていて、そんな表情を見ることができたのは嬉しく思う。しかし素直に賛同できない気持ちも含まれていて。
「………そうだね。私も楽しみだ」
偽りを自覚しながら笑みを向けることを苦く思う、瞬間だった。
25. そんなもの忘れてしまいなさい、あなたがつらいだけなら、そんなもの。
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06派生皇族ルル。時に兄も苦労してるという話。状況説明っぽい。
きな子/2007.09.02