喧嘩、をしたつもりはないけれど。
その日のルルーシュは確かに怒っていた。他でもないスザクに、怒っていた。(だって、他の友人にはいつもと同じ態度だ)
但し、友人の癇癪は割と昔から覚えがあって。だからこの状況にも、言いたくはないが慣れていた。
彼は、自分には少しばかり素直になってくれる。
そのことに嬉しさを感じるかと問われれば、「イエス」と答えるのも仕方がないと思う。この状況を是とは言わないが甘受できるのも、彼がそういった態度で居てくれるからこそで、別に変な性的嗜好があるわけではない。
……が。
それも全ては、ルルーシュが己のことを少しでも特別視してくれているという前提があるからこそで。

(……あ、ルルーシュ)

目があった。確かに目があった。
彼が怒っているならば、仲直りするチャンスだ。誰だっていつまでも、こんな状況はお断りだ。
「ルルー‥」
名前を呼ぼうとして。
確かに目が合っていたんだ。あの菫色と漆黒の、深く吸い込まれそうな目と。
それなのに、彼は目を逸らした。
スザクとかち合っていた目を、ふい、と外した。
それは彼にしてみれば何てことのない仕草だったのかもしれない。まだ(スザク当人には覚えのない)怒りが収まらず、その延長だったのかもしれないし、ただ単に視線の位置をずらしただけかもしれない。
ルルーシュにしてみれば、それだけのことだったのかもしれない。

だけれどその時、スザクの中で何かがぶちんと音をたてて切れた。



禁欲のススメ



スザクに対して言いようの知れない憤りを覚えるのは、昔から自分でもよくわからなかった。
こんなことはスザクに対してだけで、他の相手ならば自分の思い通りに動かなかったところで切り捨ててしまえばいいとの思いがあった。或いは、自分の思い通りにするだけの技量が自分にはあると確信していた。(事実、今までそうして生きてきたのだ)
それなのにスザク相手にだけはいつもうまくいかない。彼は奔放過ぎて、手綱を持つことなど不可能だとよくわかっていたし、持たなくても彼は自分にとっていつも心地よいものを与えてくれる。
それはルルーシュにとって貴重なものであり、手放し難いものだった。事実、スザクと再会してから、状況が状況故に全肯定はできないけれど、ルルーシュは昔の穏やかな心地を思い起こすことがしばしばあった。
ルルーシュにとって、スザクはそんな相手だった。

(…………しまった。今のは、少し拙かったかもしれない……)

ただ、だからこそルルーシュは他の人間には感じない苛立ちを、多々スザクに覚える。
あまりのお人好しさや、頑固な石頭、自分が決めた事に対してはルルーシュの意見なんか全然聞き入れようとしない。
彼の美徳は短所と紙一重だ。
(……だってスザクが悪い。今日だって………)
いつもの悪い癖が出てたんだ、と。まるで自分に言い訳をするように心の中で呟く。
知らんぷりをした。
意図的ではなかったと言え、何となくバツが悪く、咄嗟の行動だった。そのときに少なからず傷ついたスザクの顔を見た。
後悔するくらいなら始めからしなければいいのに、それができたらこんなに悩まない、と思う。
結局のところ自分は、スザクに振り回される自分に、当惑しているのだ。それはきっと昔より顕著になっている。
そのくらいの自覚ならあったが、それ以上にルルーシュが進むことはなかった。
今だって、スザクから逃げてきたようなものだ。目を逸らしたことが気まずくて、そのまま教室を出た。
さて、これからどこへ行けばいいのか。宛もない。
仕方ないから、用でも足して、教室に戻るしかないか……。
そんなことを考えていたルルーシュの背後から、「ルルーシュっ!!」と大声で呼びかけられるのは、直ぐだった。


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2006.11.30
207β さま、片恋15題 『7.知らんぷり』