(呼出は随分と久しぶりだな…最近は特に何もなかったのに、珍しい…)
手紙にて指定された校舎裏。
そこへと向かいながら、ルルーシュは思案に耽る。
(この前の男女逆転祭りの時はそこそこだったが……落ち着いたと思ってたのに、まだ時期外れな奴が居たのか)
こうして呼出の手紙を貰うことは、ルルーシュにとってさほど珍しいことではなかった。が、かと言ってその量が多い、というわけでもない。
基本的にアシュフォード学園はエスカレータ式で、学園の生徒の殆どが中等部からの持ち上がりである。既に中等部時代にルルーシュの難攻不落の様は定着しており、わざわざ高等部に上がってまで想いを寄せながらも告白してくるような輩はそれほど多くなかった。
生徒会副会長という立場でもあるルルーシュは、学園内で有名人でもあり人気も高い。が、誰彼構わず付き合うような人間でもないし、どちらかというと近寄りがたく、周囲は遠巻きに見ていることの方が多かった。
ルルーシュ自身それを自覚していたし、そうなるように振る舞っていた。
イベントも何もなく、こうして呼び出されることは事実珍しいことだった。(但しイベント時は学園全体が浮き足立つのか、自然とそういった類の話が増えるのは仕方がない。因みに男女逆転祭りをした後は酷かった。何せ、男子学生が次々と想いを伝えてきたのだ。あの時、人間思いこむと何をしでかすかわからないのだとルルーシュは思い知った。)
「……本当に、ストーカーでもされちゃ溜まらないな…」
ルルーシュの懸念と言ったら、それだ。
特に現状、素行でも調べられたら溜まったものではない。前科があるわけではないが、用心に越したことはない。
いざとなったら、ギアスを使うか――そんなことを考えながらも、ルルーシュは目的地へと辿り着く。
手紙の差出人のことをルルーシュは知らなかった。しかし、文面と字体から相手の性格をそれなりに推測できる。今回のは、小さな字で随分と詩的な文章を書くことから、インテリ風の女学生だろう。
そう思っていたルルーシュは、だから指定された場所で待っていた一人の生徒……それも厳つい、強面の男子学生を見た時には、身を翻してそのままダッシュで戻ってしまいたくなった。
「…………えっと、その……て、手紙、読んだよ……ア、…アンナ、さん?」
ルルーシュの呼びかけにアンナという名前の男子学生は、恥ずかしそうに返事をした。来てくれてありがとう、と照れながら言う姿は、何というか、容姿によっては大変いじらしく映ったのだろうが、生憎とその姿でやられても勘弁してくれと思わずにはいられない。
親は何を間違えたのだろうか。
想い人がそんなことを悩んでいることと露知らず。彼は恥じらいながら続けた。
「ルッ、ルルーシュ君!僕は、君のことが、ずっ、ずずずずっと、忘れられなかったんです!!」
「……失礼ですが、僕と先輩に面識はありませんよね?」
手紙で彼が(否、手紙を読んだ時点で『彼』だとは思わなかったが)3年であることは知れている。こんなことならミレイかニーナ、或いは情報通のリヴァルにでもどんな人物か聞いておけば良かったとルルーシュは思う。(しかし聞いたところで、話の種にされるけだろうから、聞かなくて正解だったのだろう)
「あっ、ある!」
「え?」
力強くそう言われて、はて、とルルーシュは首を傾げる。こんなに名前と顔が不一致な相手なら、覚えていても良さそうなものだ。
「君は覚えていないだろうが、その…っ、男女逆転祭りの時、き、君は、実に麗しい…まるで一輪の薔薇のように凛としていて、奥ゆかしく、他の誰よりも美しかった!」
「………………」
痛い。
「君はとにかく目立っていた。誰もが君の美しさに目を奪われていた…」
止めてくれないだろうかとルルーシュは真剣に思う。悪寒が全身に渡り、硬直してしまっている。
「そんな中、僕はあろうことか君にぶつかってしまった。故意ではなかったんだ、本当に!…けれど君は謝る僕に、その美貌で笑いかけて、励ましの言葉をくれた…。僕はあの時の慈悲深い君の笑顔がずっと忘れられなかったんだ!」
熱弁する相手に、暫し寒イボを忘れ、何のことだろうかと思い出す。
どうやら自分と相手は確かに面識があるようだ。が、それを面識と言っていいのかは疑問。当時のことを思い起こし、ルルーシュはそういえば、と思い出す。
(……あんまりに似合ってなくて、同情した相手がいたな……)
その時、お互いに頑張りましょう、みたいなことを言った気がしないでもない。互いに、というよりも、どう見ても見た人間が逃げ出したくなるような恰好だった相手に対する憐れみだった覚えがする。
脱いだらこれというわけか。妙なところで感心を覚えてしまった。
「……あれからというもの、僕はずっと君のことが忘れられなかった。高嶺の花だと言うことはわかっている!」
だからそういう言い方は止めてくれないだろうか。
「それでも僕は君のことが好きになってしまった…!!」
強面の、屈強そうに見える男からの盛大な告白。
彼にしてみれば一世一代の告白だろう。その切羽詰まった様子がひしひしと感じられてしまう。
さて、どうしてくれよう。
思案するルルーシュに、男子学生は「ぼっ、ぼぼぼ僕と付き合ってくれないか…ッ!!」と精一杯の勇気を振り絞って、告白。
(……ギアスを使うか……)
ややこしい事になる前に、全てを封印してしまうのが手っ取り早いか。
そう判断したルルーシュが「……先輩、」と呼びかけた、その時。かさり、と背後で草を掻き分ける音がする。
校舎裏、滅多に人が来ないような場所。告白のメッカのような場所に、わざわざ散歩がてらやってくる生徒なんて居ない。
それだというのに、闖入者はルルーシュと目があった途端、気まずそうに笑みを作りながらも、言ってのけた。
「や、やあ、ぐ…偶然…だね?……ルルーシュ」
へらり、と。
引き攣った笑みのスザクに、暫しルルーシュは呆然とせざるを得なかった。
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2006.12.11
207β
さま、片恋15題 『4.偶然を装ったり』