初恋ラプソディア3
「ル、ルルーシュ…?」
確認するように繰り返せば、「そうだ」と少年の声。
思い浮かべる同じ年齢の彼と、しかし思い出の中の彼とも確実に被ってしまう目の前の子ども。厄介なことに、スザクはこの少年が『ルルーシュではない』と言うことのできない、確固たる記憶を持ってしまっていた。
(え、えええ、えええええっ?!)
大混乱だ。
そんなスザクを気にも留めず、子どもの姿をしたルルーシュは「ところでここはどこだ?」と、自分の置かれた状況に疑問を掲げていた。
「僕の部屋じゃないし…見たことがない」
「えっ、と……ここは僕の部屋だけど…」
その答えに、ルルーシュはどうして自分が使用人の部屋で寝ていたのか理解できないよう首を傾げている。
ごもっともだ。
そして聞くに、ルルーシュは自分の部屋で寝入ったと言う。起きたらここ…スザクの隣で寝ていたというわけだ。
理由を求められても、当然スザクが答えられる筈もない。だからといって曖昧な答えを続けていれば、子どもであろうと不審に思うだろう。
どうすればいい。そう考えて、スザクははたと思う。
(そうだ……いま、ルルーシュは…っ)
スザクと同い年のルルーシュだ。本来あるべきの。
目の前のルルーシュが何歳かはわからないが、この子どもが本当にルルーシュならば、当のルルーシュはどうなっているのか。
思い立ったら確認せずにはいられない。子どものルルーシュに「ちょっと待ってて!」と声をかけたスザクは、先ほど途中で切ってしまった電話を取り出し、再び同じ番号を押した。
(ルルーシュ……っ、頼むから出て…っ)
電子音が耳元で鳴る。鳴り続けるばかりの音に、スザクは内心の焦りが募るばかり。
が、機械音は空しくも『ただいま電話に出ることはできません。ご用のある方は……』といったお決まりの文句に変わる。
「ッ何で出ないの!」
泣きそうな声になってしまった。
―――ルルーシュが携帯電話に出ないことは決して珍しくはない。が、こんな時に限って!と焦りから無用な憤りが生まれてしまう。
「アッシュフォード学園の番号は……っ」
本人が捕まらないならば、家に居るかどうか確認するまでだ。つい口にした単語を、ただスザクの様子を傍観するばかりだった子どもは耳敏くも拾っていた。
「アッシュフォード?……おじうえ?」
が、必死なスザクは子どもの呟きに気付かない。
電話を続けたスザクは、今度はちゃんと出たアッシュフォード学園の顔馴染みとなったメイドについ勢いで名前を呼んでいた。
「さっ咲世子さん?!えっと、朝早くにごめんなさい。枢木スザクです。あの、今、ルルーシュいますか?……え?居ない?………昨日の夜は帰っているんですよね?ええ、僕が送って行きましたし…夜中に出かけた様子もないのに?ナナリーは…そうですか、心配してますよね…。え?あっ、いえ………心当たり………………あ、あると言えば、あります…ので、ナナリーには大丈夫だって伝えてもらえますか?ええ、心配はいらないって。よろしくお願いします」
ぴっ、と電話を切る。
と、同時に、スザクはその場に蹲った。
「ッ―――心配いらないだなんて………どうするんだよ僕……っ!」
彼の妹に余計な不安は植え付けたくない。そう思ったから、大丈夫だなんてつい言ってしまっていた。
嘘を言ったつもりはないが(実際、ルルーシュは側にいるのだから、心当たりがあるのは違いない。それが子どもなだけだ)屁理屈を捏ねてしまっているあたり、ただ自分で自分を追いつめているだけなのをひしひしと感じる。
「どこ、行っちゃったんだよー………」
ルルーシュ、とは心の中で。
目の前の子どもが果たして本人なのか。或いは、“子ども”のルルーシュがここに来てしまったのか。
こんな非現実的な現状をまともな頭で考えられるわけがなかったし、かと言って相談する相手もいない。
畑違いだが上司である科学者に相談してみようかとも一瞬思ったが、対象がブリタニアの皇子だ。下手なことをして何かが表になるようなことがあれば、元も子もない。
そもそもこの子どものルルーシュが『ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア』を名乗る以上、絶対に表には出すわけにはいかなかった。
自分ひとりでこの現実をどうすればいいのか……頭を抱え込んでいたスザクの耳に届いた、ぽつりと呟く声。
「ナナリー?」
え?とスザクが答える前に、ルルーシュは続けた。
「……僕のいもうととおんなじ名前だ…」
「え、あ、うん……」
それは当人なのだから当たり前なのだが、子どものルルーシュの現実ではない。
答えに窮すスザクだったが、ふと違和感を覚えた。
(ルルーシュ…?)
気に掛かったのは、子どもの表情だ。
スザクの知るルルーシュは、妹のことを語る時はいつも目が違った。格段に優しく、心の底から慈しむ様子がありありとわかる。スザクが初めて会った時だってルルーシュはナナリーを守ることが絶対で、最初は毛を逆立てた猫のようだったのだ。
そのルルーシュが。
ナナリー、と名前を呼んで、顔が曇った。
それも時折スザクも見たことがある憂いからのものではない。口を尖らせて、不満そうな。
まるでおもちゃを取られた子どものようだ。
初めて見るそんなルルーシュの顔に、スザクは「ルルーシュ?」と声をかけていた。呼ばれた少年は、泣きそうな顔で呟いた。
「…………いもうとなんて、いなくてもよかったのに」
「え?」
想像もしなかった告白。
スザクは何もかもが吹っ飛んでしまうくらいの衝撃を受け、暫し呆然とせずには居られなかった。
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某方よりネタを頂戴。感謝。/ 2007.01.21