朝起きたら、ルルーシュが隣に寝ていました。
――――― 子どもの姿で。


初恋ラプソディア2


「……………………え?」

寝惚け眼で夢でも見ているのだろうか。目覚め一番の感想だ。
起き上がろうとしてシーツを剥いだ時、妙な違和感を感じて。視線をほんの少しだけずらしたスザクの視界に入った、覚えのない生き物。それが人間の子どもなのだということを理解するのにすら、時間が掛かってしまった。
「……………えっ、と?」
これは何だろう。
己の思考が停止しているのはわかった。これは子どもか。答えを導き出す頭は、割と冷静ではないだろうか。客観的に己をそんな風に評価してしまったが、その時点で現実逃避の毛がなかろうか。
(どこの子……っていうか、どこから入ってきて……っ)
『どこ』から先ず考えればいいのか。
混乱仕切ったスザクは、首を伸ばして子どもの方を覗き込む。まるで未知の物体のような扱いになってしまうのも、仕方がない。
すうすうと小さな身体を丸めて息をする子どもをスザクは恐る恐る触てみった。温かい存在は確かに生きてるもので、子ども特有の柔らかさがスザクの手に伝わる。
ほんの少しだけ揺すって、ころりと子どもはスザクに姿を晒す。それに、スザクは目を瞠った。

(…………ルルー、シュ……?)

子どもの顔には見覚えがあった。自分の記憶にあるものよりも更に幼いが、癖のある黒髪。眠っているので瞳の色はわからないが、この子どもが幼馴染とそっくりな事実に呆然とする。
(ルルーシュ………な、ワケがないじゃないか!)
スザクの知る幼馴染は、スザクと同い年だ。れっきとした17歳だ。こんな子どもの姿である筈がない。
が、あまりに似すぎているその姿に、直感でその名前を思い浮かべてしまった。そうなったら最後、どうにもこの子どもが幼馴染みにしか見えなくなってしまってしまう。
(……ルルーシュの、隠し子?)
と、考えて、はっと我に返る。何を馬鹿なことを!と激しく首を振り被った。
少なくともこの子どもは4、5歳だ。いくらなんでも同い年の幼馴染みが子どもを作るには早過ぎる。
(っだから僕は何を考えているんだ!)
いろいろと思考が飛躍してしまっている。その自覚はあるのに、かと言って現実として受け止めるには状況が掴めない。整然正しく全くないこの状況。どうして、と考えるものの、ぐちゃぐちゃになった糸はその先端すら見当たらない。
どうして?
とりあえず。それよりも。

(どっ…………どうしよう………!!!)

現状にスザクは八方塞がりだ。
(ルッルルーシュ………ルルーシュに聞いた方がいいのか……?!)
関係があるのかなんてさっぱりわからないけれど。この子どもが友人とそっくりなのは疑いようがない。
当の本人に聞いていいものなのか?そうは思いもしたものの他に頼る宛もない。
スザクは机の上に放置されていた携帯電話を掴み、指で弾いて画面を開く。通信先は暗記している。個人宛の番号の羅列を思い出して、スザクはひとつひとつを確かめるようにプッシュする。
落ち着かない動機に些か指が滑ったが、あとふたつ、番号を押せばというところまできて。
背後で唸る子ども。
驚愕から思わず『切』ボタンを押していた。
「ッ!?」
勢いよく振り返れば、もぞもぞとベッドの上で動く存在。
(お、起きた……?)
おっかなびっくりな仕草でスザクはベッドへと近付く。…と、幼い子どもは眠そうに目を擦りながらも、ちょこんとシーツの中から這い出てきていた。―――瞼の下には、紫電の瞳を覗かせて。
(…………ルルーシュ、だ……)
見間違うことのない色。高貴な色とされるこの瞳を、スザクはルルーシュ以外に見たことがなかった。彼の妹であるナナリーも同じ色を宿しているのだろうが、残念ながらスザクが彼女のそれを見たことはない。
あまりに酷似し過ぎていた。
突然現れた子どもは、自分の幼馴染み…その幼少時代にそっくりだ。否、その姿は自分の知らなかった頃まで遡る。
混乱するばかりだ。現状、スザクは何も考えられない。
そんなスザクの姿に気付いたのか…子どもは、自分を見てくる青年を、じっ、と見返す。幼い容姿の割に物怖じしていない様子は、相手を品定めさえしているように見える。
そうして彼は、子ども特有の甲高い、甘い声で言った。

「お前はだれだ?新しい世話人か?」

(ッ……?!)
その声も、態度も、何もかもがよく知っているものだった。
まるで既視感のようにも思ったが、決して錯覚などではない。これだけ記憶の中の姿と合い重なる。到底、似ているだけでは絶対に認められない。
スザクは震えそうになる声を抑える。子どもよりも自分の方が狼狽えているなどおかしな話だ。そんなことを思いながら、スザクは問う。

「っ………君の、名前は……?」

その問いに、子どもは不思議そうに首を傾げた。
彼はスザクのことを『世話人』かと勘違いしていた。普通ならば、名前など知っていて当然だろう。逆に自分を知らない相手を不審に思うべきだったのかもしれないが、しかし子どもはやはり子どもなのだ。
彼は少しばかり不思議そうにしたが、素直に名乗る。
甘い甘い響きの中に、けれど生まれ持った皇族の血筋という気高さを潜ませて。


「僕はルルーシュ。ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア」


その名前に、今度こそスザクの頭は真っ白になった。



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某方よりネタを頂戴。感謝。/ 2007.01.20