例えばの話、お伽噺のような出来事があっても良いのでしょうか?
―――良いも悪いも、あっちゃったものは仕方がないではありませんか。
これはそんなお話です。
初恋ラプソディア
「―――初恋?」
鸚鵡返しに問えば、そうっ!と激しくも首を縦に振った女傑。その目は爛々としている。
世話話から発展した、興味本位の好奇心。質の悪さが出たかと内心で溜息を吐きたいのを抑えながら、とりあえず悩む素振りくらいはしておく。
このノリならば適当に誤魔化すだけで逃れられだろう。その程度の判断を下せるくらいには、ルルーシュもミレイに手慣れていた。
「生憎ですが、会長がお望みの答えは返せそうにないですよ。覚えがないんで」
「覚えがないって…初恋の?ルルちゃんてばそんな渇いた幼少期を送ってたわけ?」
「子どもながら、色々と忙しい身でしてね」
とん、と持っていた書類を束にして一度机の上で端を揃える。
―――因みに、今この室内には、生徒会長と副会長、そして先日入ったばかりの新米役員しかいない。
「だから、初恋とか…………」
そこでふと、ルルーシュの言葉が途切れる。
不自然さに首を傾げたミレイが「ルルーシュ?」と呼びかけたところで「あ、ええ……」と歯切れの悪い反応。
何か思うことがあったのか。
ミレイがそう問いかけてみたら、ルルーシュは彼にしては少しばから珍しい、しおらしい表情で。…というよりも、何かすっきりとしないことを考え込むような仕草で応えた。
「………だから、全く覚えがないんですよね」
本人も不思議なくらいに、全く覚えがないのだと。
到底嘘とは思えない表情で答えたルルーシュに、ミレイは追求を諦めたらしい。どうやら彼女もまた、ルルーシュに対しての線引きは確かなようだ。
…とは言え、全く満足していない彼女がその矛先を変えるのはそう時間のかかることではない。
「じゃあ、スザクは?」
と、再び目を輝かせて好奇心のみで発言するミレイに、真面目にも書類整理を黙々としていたスザクは「……は?」と顔を上げる。
「あら、今の話、聞いてなかった?」
「えっ、と……初恋、が、どうとか……」
その答えにミレイは「よろしい」と胸を張って満足そうに首肯。
「で?どうなの?」
「ど、どう、とは…?」
ずい、と迫られたスザクは対応に困る。慣れていない人間にあれは辛いだろう…と内心で思うルルーシュだが、彼も助け船を出そうとはしなかった。
せっかく彼女の興味が自分から逸れたのに、巻き返すような真似は勿論したくない。同時に、親友のその手の話に自分もまた興味がないと言ったら、それは嘘になるからだ。
「だから、スザクの初恋はどうだったの、って聞いてるのよ」
「初恋……ですか?」
「そ。は、つ、こ、い」
一文字ずつを区切って音にするミレイの声は実に愉快そうだ。
そんなミレイに戸惑っているのだろう。「はぁ…」と曖昧に応えて、目を泳がせている。
(スザクの初恋、か…)
ルルーシュが思い出すのは、袴を着た幼いスザクの姿だ。初恋と言えば、あのくらいの時期にしていてもおかしくないだろう。
スザクもまた、どの時代に思いを巡らせているのか。
手応えありと踏んだのか、ミレイもスザクの回答を今かと待ち望んでいる様子がありありとわかる。
「そうですね……初恋、というなら、多分……」
「多分?!」
(多分?)
その先の答えを聞くのにも力が入る。照れくさそうに笑ったスザクは、そうして続けた。
「昔、一時だけ家にいたお手伝いのお姉さんでしょうか」
「お、お手伝いさん……?」
何を期待していたのかは知らないが、ミレイにしてみれば拍子抜けな回答だったらしい。少し調子が外れた声。
そんな彼女の様子に頓着することなく、スザクは「はい」と答えた。
「小さい時なので、よく覚えてないんですが…確か、凄く綺麗な人だった気がします」
「…マセたお子様だったのねぇ、スザク」
「そうですか?」
近所のお姉さんに恋心を寄せるのはいたいけな少年のお約束かぁ、と呟くミレイを余所に、ルルーシュは「……そういえばお前は昔からフェミニストだったな」とスザクに向かって呟いていた。
それにスザクは「そうかな?」と答えながらも、「そういうルルーシュだって女の人には優しかったじゃないか」と続ける。
否定する気はなけれど、肯定する気もないのだろう。黙ったルルーシュに、今度はミレイが「はいはいはい」と手を叩きながら2人の間に割り入った。
「仲良きことは美しきかな。口はいいから、とにかく手を動かしなさい、2人とも!」
「……って、会長が言い出しっぺじゃないですか。初恋がどうだの…、」
「いいから手を動かす!だって少しでもルルちゃんのことを知りたいのにー?ルルちゃんてばなーんも教えてくれないんだもの。お姉さん、拗ねちゃうぞ?」
「似合わないことはしない方がいいですよ。それといい加減、人のプライバシーを探るのやめて下さい。どうせ弱味でも握ってよからぬことを企むつもりでしょう?」
「あら失礼ね。ツンツンしてる子はかわいくないわよ?」
「かわいくなくて結構です」
軽口の応酬に、クスクスと笑うスザク。
それに気付いたミレイが「そっちはどう?」と書類整理の進行状況を尋ねれば、後少しですという素直な答え。
よろしい、と鷹揚に頷いたミレイが2人を雑務から解放するのは、もう少し後のこと。
今日はいつもと変わらない、そんな普通の日だった。
いつもと同じ、少し違うことといえば、明日が休日の週末ということくらいだ。
その、筈だった。
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某方よりネタを頂戴。感謝。/ 2007.01.18