ぴぴぴぴぴ!と鳴る携帯電話の着信音は買った時から変わらない初期設定のままだ。周囲の友人諸々には可愛げがないと言われたが、世の世情に疎くなくとも興味もないルルーシュにとってみればわざわざ着信音を変える方が面倒くさい。
ポケットの中で着信を知らせる電話を手にとってみれば、そのディスプレイには聞き慣れてはしまったが字面としては初めて見る名前。思わず電話を取るのを躊躇してしまった。しかしいつまでも放置しておくわけにもいかず、鳴り止む気配もない。こちらが休み時間だということを考慮した上で掛けているのだろうから、気付いてしまった以上は無視をするわけにもいかなかった。
ルルーシュは息を一度飲み込んで、通話ボタンを押す。
「………はい」
『ルルーシュかい?今日の放課後、そちらの大学部に寄る予定だから君もおいで。一緒に帰ろう』
「……………」
かくしてルルーシュは放課後に先ほどミレイから聞いた件の博士の元へと行く羽目になり、また本日うっかり補習の予定が入ってしまった幼なじみにはぶつくさと文句を言われることとなった。
「あっはぁ〜!こんにちはぁルルーシュ君!」
「……相変わらずそこはかとなくむかつく口調ですね、ロイド博士」
「ほらほら聞きました?!ご存知じゃないですか!」
「どうして君のような人間とルルーシュに接点があったかが理解はできないのだが確かなようだな。やあルルーシュ。お疲れさま」
何の話だと穿ちながらもとりあえずルルーシュはソファにゆったりと座っている異母兄にぺこりと一礼。ちらりと視線を泳がして、ぽつりと一言。
「………俺の方も兄さんとロイド博士が旧友だと聞いて驚愕しましたよ」
ルルーシュがそう言えば白衣を身に纏った青年は奇声なのか歓声なのかよくわからない声で笑う。笑いながら「旧友ですって!」とシュナイゼルに言うものだから相当仲が良いのかと思えばシュナイゼルが「質の悪い冗談のようだな」と笑顔で毒づくものだからルルーシュはああこの2人は本当に仲が良いのだなと納得。シュナイゼルの気安い姿が意外といえば意外だった。
「どうぞ、ルルーシュ君」
ことり、と目の前に置かれたお茶。助手たるセシルの気遣いに感謝しつつルルーシュは「セシルさん、ラクシャータは?」と彼女に聞く。そうすればセシルではなく横からロイドが回答。
「ラクシャータなら帰りましたよ〜」
「ロイドさんが馬鹿なことを言ったからでしょう。ラクシャータさんが呆れて帰るのは当たり前ですっ」
がんっ、とロイドの頭に落ちたトレイが音をたてた。両手を掲げて押さえてるあたりだいぶ痛そうな様子だが、ここに彼を心配して声を掛ける人間はいない。
「だぁーってえ!彼女、プリンをバカにしたんだよ?!ねぇルルーシュ君ならわかるでしょう?!僕の気持ち!」
「ああ、お前の阿呆さにラクシャータが呆れた気持ちがよくわかる」
「ていうかもう何度も言ってるけどどうしてルルーシュ君ラクシャータの肩ばかり持つの?名前だって僕にはいつまでも他人行儀なのにラクシャータは呼び捨て!」
「彼女が博士とか女史とか呼ばれるの嫌がったんだよ。大体、他人行儀って何だ」
「ラクシャータさんの方がロイドさんよりルルーシュ君との付き合い長いですしね」
「出会いに年月なんて関係ないんじゃないのぉ!」
喚くロイドにそっぽ向いてルルーシュは出されたお茶を啜った。一言、「美味しい」と感想を告げれば傍らのセシルもまたロイドを無視してふふふと笑う。それ、前にルルーシュ君に教えてもらった茶葉よ、とセシルが言えばルルーシュも笑顔で相槌。俺も異母妹に教えてもらったんですよと話は弾み、いつの間にやらロイドは除け者状態。どちらかといえば女性らしい会話で盛り上がるルルーシュとセシルの会話を遮ったのは今まで黙って3人(現在は2人)のやり取りを黙って見ていたシュナイゼルだった。
「何やら随分と仲が良いようだね」
「え?あっ、すみません…つい……」
いつもの癖で話し、シュナイゼルを意識的ではないにしろ無視する形になってしまった。慌ててルルーシュが謝れば、セシルも申し訳なさそうに頭を下げる。
「私の方もすみません。せっかく弟さんを迎えにいらしたのに…」
「いや、ルルーシュとはいつでも話はできるからね」
ね?と同意を求める語尾に思わずルルーシュは返答に困ってしまった。が、呼びかけた当人は返答など必要としていなかったらしくそのままセシルに笑顔で話しかけている。後にロイドが「これみよがしに見せつけてくれてむーかーつーくー!」とか何とか愚痴ってセシルに鉄槌を食らう姿があったとかなんとか。
「学校でのルルーシュの姿も見ることができたし、セシルさんに会ってこうして美味しいお茶までご馳走になれるなんて、嬉しい限りだよ」
「そっ、そんな……お、お茶は、ルルーシュ君のおすすめなので美味しいこと間違いないですよ!」
かあぁ!と少女のように顔を真っ赤にするセシルにルルーシュは珍しいものを見たと思う。そうか彼女は兄みたいなタイプに弱かったのか、と新たな発見になんとなく感嘆。
「ルルーシュのおすすめとは、さっき言っていた?」
「え?あ、はい…俺のおすすめというか、ユフィが飲みたいとせがんできて……」
「ルルーシュ君の淹れたお茶、とっても美味しいんですよ」
「おや、それは是非とも飲ませてもらいたいな、ルルーシュ」
「っ!セシルさん!」
今度顔を真っ赤にしたのはルルーシュだった。そうかセシルがシュナイゼルのようなタイプに弱いのではなくて、シュナイゼル自身が恥ずかしいことをさらりと言うせいか!とルルーシュは認識を改める。
この無駄に容姿が整った男はそれに加えて言うこと為す動作までもがはまってしまう為にストライクゾーンが男女問わないのではないか。
無論、例外は存在するけれど。
「………ちょっと。僕もいるんですけど?」
完全に蚊帳の外に放り出されていたのはロイド。存在を主張してみたとこで、三者三様、視線はかろうじて向けてもらえたがそのまま流されてしまった。
やるせなさのあまり目の前に置かれた焼き菓子をまとめて口に入れた瞬間、それがセシル手製のクッキーであったことに気付いたのだが飲み込んでしまえば後の祭。
用心深くそれに手を付けていなかった異母兄弟は揃ってロイドが噎せる姿にやはり手を付けなくてよかったと内心で安堵しながら(勿論そんな表情はお首にも出さない)首を傾げるセシルを横目にロイドには哀れみの視線を向けたが、それだけだった。
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きな子/2007.08.05