※にょた注意! ルルーシュとロイドのみ色なし
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 春。桜の季節です。


「…今年は随分とまた桜の開花が早まったみたいだな」
 朝のテレビニュース。美人なお天気お姉さんが、キャスターのおじさんに貼り付けた笑顔と多少なりと演技がかった声で『都内でも桜が観測されました』と告げていた。イエローのカーディガンに紺と裾に白が入ったフレアスカート。服装もさることながら、メイクも清楚で春らしい印象を与えるものだ。
 化粧気なしだろうと白い肌で頬を少し赤くするルルーシュは、テレビの中の女性に朝から大変だなあと感想を抱く。
「温暖化ですかねえ」
 のんびりと、世間話が返ってくるのは正面に座った相手から。右手でこんがりと焼かれた食パン(上にベーコン付きの目玉焼きが乗っている)を囓り、左手でコーヒーが入ったカップを持ってずずずと音を立てて啜っている。行儀が悪いと何度注意しても直らないけれど、ルルーシュがひと睨みすると食パンの方をとりあえず片付けることに専念するようになった。
「今年の冬は雪も降らなかったしな」
「僕としては嬉しかったんですけどねえ」
「冬は暖房、夏はクーラーがガンガン効いた中でぬくぬくと過ごしているだけの奴が何を言う」
 あっはあ、と特徴的な笑い。
「そういう殿下だって、しょっちゅう保健室に入り浸っているじゃないですかぁ」
 それはロイドにとって大変嬉しいことなのだけれど、ここは冗談めかして。するとルルーシュはふふんと口端を上げて、「役得だ」と答えた。

 テレビ音と、カチャカチャと食器を片付ける音。
 特に会話もない。学校も休みだから、随分とのんびりした朝だ。
 今日はどうしよう。時間もあるし、面倒だけど論文でもちゃっちゃと書いていようかなあっと、ロイドが思った時だった。
「買い物に行こうか」
 朝一番。日差しが天辺に昇るにはまだ少し早く、怠惰な休日を貪るには動くのに勿体ない時間。
 思わずロイドが「はい?」と首を捻れば、ルルーシュは彼女にしては珍しいことを言った。
「せっかくこんなにいい天気なんだ。外に出なきゃもったいない」
 基本的にルルーシュもまたインドア派。昔から運動神経の方は言葉悪く言えばお粗末なもので、プライドも高い彼女がそれを他人に見せないためには室内に篭もって読者に没頭したり7つ上の兄とチェスに興じることが多かった。それでも活発な妹姫たちに連れ出されることも多く、へとへとになったものの妹たちが楽しそうにしていれば当人も甘やかな笑みを浮かべていた。そんなことを思い出して、ロイドはなんとなく柔らかな日差しが差し込んでいる窓に視線をやった。
「………春だなぁ」
 ロイドもまたルルーシュ以上の引きこもり体質だったが、確かにこんなにもいい天気ならば、ちょっと散歩に出るのもいいかもしれない。やっぱり春だなぁ、と再び思った。



 ルルーシュの買い物は至ってシンプルだ。必要な物をカゴに入れて、レジで精算。余分な物は一切買わない。きちんと家計簿だって一円違わずつけている。
 衣服に関してもそうだ。迷うことがない。あまり洒落っけの強い物は買わず、シンプルでスタンダードな物が多い。パンツなどは一応試着はするが、日本人向けの丈は殆ど裾直し要らずだ。店員は感嘆としてしまうことが多く、スタイルの良さを褒める前にルルーシュは購入を決めてしまうから殆ど会話はない。
 荷物持ちになっていたロイドは、黒のインナーとジーパンをさっさと決めて買おうとしているルルーシュに、多少なりの物足りなさを覚える。別にあれやこれやと悩んで欲しいわけではない。これがルルーシュでなければ、そもそも女性の買い物に付き合うなんてことはしないし、誰がどんな服を着てようが興味なんて全くない。が、今日も今日とてシンプルなTシャツにジーパン姿、緩いモッズコートを羽織っただけの姿に、それはそれで着こなしているのがルルーシュ(のプロポーション)なのだが、季節は浮き足立つ春だ。
 今朝のお天気お姉さんが、ふと脳裏に蘇る。顔は全く覚えていない。印象は薄い色合いだ。春色という概念はロイドにはない。
 そして目に留まったのは、女性の体型を象ったのっぺらぼうの人形に着せられた服。白いワンピース。ノースリーブで随分と涼しげだ。春の装いとでも言うのだろうか。そういった感想があまりピンとこないロイドだったけれど、なんとなく、ふっと、ルルーシュが着てみたら似合うのではないかと思った。だから、つい、お願いしてみた。
「ねぇ、ルルーシュ殿下。あれ、着てみてくださいよ」
「………は?」
 ルルーシュはきょとんとしている。何を言われたか、よくわかっていないといった表情だ。
「あれって…あれ?」
「そう」
 ロイドが指を差した先をルルーシュもまた差す。その先には白いワンピースを着たマネキン人形。
 え? と、相変わらずロイドの要求が呑み込めないルルーシュを目敏く察したのか、すかさず先ほどルルーシュを誉め損ねた店員がやってきて「春の新作で入荷したばかりなんですよ」と同じ物を持ってきた。是非、試着してみて下さい。お客様なら絶対にお似合いですよ! と、言われ、基本的に見かけによらず押しに弱いルルーシュは店員に背中を押されるままに再び試着室へと押し込められる。そうなると着替えないわけにもいかなくて、とりあえずインナー以外は脱いでワンピースを羽織ってみた。カーテンの向こうから、店員が「お客様如何ですかー?」という声が聞こえる。普段、ルルーシュはパンツの裾があっていることを確認したらさっさと着替えてしまう。こんな、何を確認すればいいのかわからない物を試着したのは初めてだ。わからないまま、ルルーシュは不安気にカーテンを引く。すると店員がお疲れさまでしたーといいながら、直ぐに「まあ!」と甲高い声。あとはお似合いだの可愛いだの春だからだの小物をつけるとぐっと女らしくなるだのまだ出たばかりですが人気なんですよーだの新作は他にはどんな物があるだの畳みかけてきた。基本押しに弱いルルーシュ。テンションの高まった店員に口を挟む隙が見出せない。ちらりとロイドに視線を向けてみたら、彼にしては珍しくぽかんとした表情でルルーシュのことを見ていた。そんなロイドを前にして何だかとても居心地が悪い気分になって、…似合ってないのか? と変な不安を覚える。段々と居たたまれなくなってきたルルーシュ(しかも普段の衣服と比べると心許ない布地面積だ)は早く脱いでしまいたくなって、試着室に戻ろうとカーテンを握った時だった。
「ねえ、君」
 ロイドが店員に話しかけた。はい、と店員は至極明るい返事。
「これ、ちょうだい」
 は? とルルーシュがロイドを振り返ったところ、店員がありがうございます、お会計は? とニコニコとロイドに訊いている。
「僕が払うから」
「それではお客様、お先にお会計を致しますので」
 どうぞゆっくり着替えてくださいと再び試着室へと押し込められた。え? とルルーシュが声を発する前に、シャーっ! とカーテンは引かれてしまった。
 仕方ないので着替えて、ワンピースを抱えて出れば、待ちかまえていた店員に直ぐに奪われてしまった。素早くたたまれたそれをシンプルなデザインの紙袋に入れて、ルルーシュに笑顔満面で「ありがうございましたー」と渡している。
 どうも〜と言ったロイドの機嫌がとても良さそうなことが、ルルーシュはどうにも解せないままだった。


 その後、何だかお腹が空いてしまったので、珍しくカフェに入った。天気が良いからと進められたテラス席で食べたエビとトマトのクリームチーズドリアは美味だった。
 昼下がりの日差しを浴びて、いつもより緩やかな歩調で帰り道を歩く。
 手には紙袋が2つ。スーパーに立ち寄って買った食材が入ったビニール袋はロイドが両手で持っている。
「……なあ、ロイド」
「はあい?」
 ロイドもまた上機嫌だった。そう言えば、彼にワンピースのお礼をしていないなとルルーシュは思う。特別ルルーシュがねだったわけでもないし、彼女にしてみれば余計な買い物ではあったかもしれない。けれども、まあ、いつか着る機会はあるかもしれないし。
「ケーキ屋に寄ってから帰ろうか。新作のプリンが出ていた筈だ」
 さっきスーパーでいつも冷蔵庫に必ず置いてある徳用プリンは買った。が、今日のデザートはちょっと贅沢に。
 ワンピースのお礼とか、せっかくの買い物だとか、休日だからとか。いろいろとあるけれど、きっと、全部が全部、理由として当て嵌まってはどれが正しいとかはなくて。
 いいですねぇとロイドは更に喜び勇んだ足取りで地を蹴った。



 季節は、春です。




学園パラレル 休日編。




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何でもない日ばんざい! 的な。
きな子/09.03.22