※スザクはいろんな女の子と付き合ってました。
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初めて女の子を綺麗だと思ったのは高校の入学式の日だった。
(女の子は、かわいい)
スザクは今まで付き合ってきた女の子たちを思い出す。その正確な数はもう覚えていないけれど、皆それぞれ愛らしさを持っていた。或いは何歳も年上の女性とも付き合ったこともある。彼女らは確かに可愛らしいという分には綺麗な容姿であったが、甘やかし上手だった女性たちはどちらかといえば姉的な存在だった。
(ルルーシュ・ランペルージ)
その名前を心の中で繰り返したのは、高校で初めて彼女を見た時。エスカレータ式といえど、アッシュフォード学園において高校からの外部生は珍しくなかったが、ルルーシュが中でも一等異色だったのは間違いない。容姿も然ることながら、その立ち振る舞いは見る人を魅了する力があった。無論、スザクもそれに魅せられたひとりだった。
「リヴァル!今日の放課後なんだけど………」
親しげな声。近い距離。楽しそうな笑い声。
そのひとつひとつが全て気になって仕方がないのはもう一種の病気なんじゃないかとスザクは思う。
かろうじての救いは彼女と話している男子学生が副会長ではなく生徒会長に惚れ込んでいるということか。やはりこうして立てるつもりのない聞き耳を立てていた時、リヴァルの言葉の端々から生徒会長に対する気持ちが見え隠れしていた。とりあえずルルーシュにその手の感情が向けられる様子がないことにほっとした…自分に気付いた時は、自分のことながら驚愕だった。
同じクラスといっても話したことのない相手。生徒会副会長に抜擢された彼女(何故、外部生の彼女が?と今まで興味なかった生徒会にも疑問を覚えたのだが、入学試験の結果やその他諸々の条件は次第に明るみになるにつれ納得した。更に生徒会長と入学以前より交流があったことは会長本人の口から発表されていたので学内においても異論は全くなかった)は基本的に忙しく、また休み時間になると教室を離れることがとても多い。何かきっかけを、と思わなければ彼女と話すことは当分ないのだろう――― そう思っていた矢先に、ある意味でとても印象深いきっかけを得ることとなった。
但し、それは彼女にとってしてみれば最悪だったろうと自覚はしているし、また自分にとっても苦い…というよりも、(身体的に、という意味で)痛い思い出だ。
更に厄介なことに、全く近くなかった彼女との距離が更に遠ざかることになったきっかけ。
それは先日のことだった。
スザクは誘われたら断らない。
この日も、中学時代に声をかけられてから何度か会っていた先輩に校舎裏まで引っ張られた。何をするのかと言えば大したことではないし、スザクの周りの女の子もどちらかといえば気軽な付き合いを望む子ばかりだった。もちろんその方がスザクも有り難かったし、深くを求めてくる相手はやんわりと遠ざけていた。面倒な付き合いは御免だと思っていたのだが、この時はまだルルーシュという女子生徒をあまり深く意識はしていなかった。少し毛色の変わった子がいるな、と。但し、既に興味は芽生えていた。
――― そういったスザクの多少の心境変化を周りは何故か鋭く見抜いていたのか、若しくはただの偶然かもしれないけれど。ひとつ上の女子生徒に呼び出されたスザクは校舎裏まで彼女と歩きながら、「気になる子でもできた?」と問われた。
驚いたのはスザクの方で、本人もろくにまだ意識をしていなかったそれを彼女は笑いながらこう言った。
「だってスザク君、高校に上がってから変わったもの。今までも優しかったけど、もっと平等にみんなに優しくなった」
それがどうして気になる子ができたという話に繋がるのかと聞けば、彼女は続けた。
「誰でも良かったのが誰かじゃないと嫌になったんでしょ。だから逆にその子以外にはいくらでも優しくしてあげられるの。スザク君の優しさって見返りとかそういうの全部突っぱねる一方的なものだもの。肝心のところはいつも隠してばかりで、絶対に教えてくれなかった。だから私も気楽に付き合えたんだけどね」
面白そうに笑う彼女にスザクは唖然。そんな風に見られていたのかと実感すると共に、やはり女の子は侮れないと何となく感心。
彼女は満面の笑みを湛えて「だからね、」と言った。
「お別れしましょ?」
「……本当は先輩の方が誰か好きな人ができたんじゃないですか?」
「バレたか」
舌を出しながら笑う彼女はやはり愛らしかった。負け惜しみかはわからないけれど冗談で言ってみたことが肯定されてスザクは面食らいもした。ただ別れると言ってみたものの最初からきちんと“付き合っていた”わけではないから、何だかとても変な気分ではあった。けれど彼女がそれを望むならスザクに拒否するつもりもない。
「楽しかったですよ、先輩」
「私もよ、スザク君。ありがと」
そう言ってしばらく別れのキス。慣れていた行為はスザクにとって何てことはない。事実、挨拶以外の意味がなかった。
しかし彼女と最後に言葉を交わし別れた後(おそらく二度と話すことはないだろう)暫し余韻に浸っていたその時。
突然、草むらからルルーシュが這い出てきたときは、流石のスザクも目を丸くした。
「……覗きが趣味だったの?ランペルージさん」
とりあえずそう聞けばルルーシュは思いの外、顔を真っ赤にして怒鳴った。意外に感情が豊からしいルルーシュの表情ひとつひとつがスザクの中に新しい彼女を象っていく。
触れたい、と思った。
掴んだ腕は少し低い体温が熱くなった自分の手に心地よい。柔らかさよりも細さが気になった手首。透き通るような白い肌。何もかもがスザクの琴線に触れる。
先ほど、自分の優しさは見返りを求めない一方的なものだと言われた。ならば見返りを求めた時、自分は優しさではなく何をするのだろうか―――頭の片隅で考えながら、気付けばルルーシュに随分と接近していた。
「なんなら君ともしてみようか?キス」
彼女が怒るのも当然で、しかしスザクは彼女の苛烈な怒りに興奮した。正しくいえば欲情した。
「私に、触るな」
怒った顔も綺麗だと思った。怒りを宿した瞳は爛々とスザクだけを一心に見つめている。沸き上がるのは支配欲、征服欲。
そんな経験は初めてだった。
(―――しかし完全にシカトされてるなぁ……)
それは当たり前と言えば当たり前のことだけど、やはりこれだけ綺麗さっぱり無視されると空しい。こんなことならあんなことするんじゃなかったと僅かばかり後悔。
(……本当に、痛かったし)
思わず蹴り上げられた下部を思い出してしまった。あれは二度と御免被りたい。
―――ルルーシュに挑発ともとれる行為を続け、結果として抗えない一撃を食らった一件から、ルルーシュは同じ教室にいても全くスザクの方を見ようとはしなかった。
今までは意識されていなくとも顔をこちらに向けるくらいはあったのに、それさえも全くないということは間違いなく意図的。それも仕方ないと思う一方で、こんなにも意識してしまっている自分。今、彼女に話しかけてみたところで彼女の逆鱗に触れることは間違いないだろうから、時期を見計らうしかないけれど。
(………そういえば)
スザクはあのやりとりの直後、声を掛けてきた保健医を思い出した。ロイド・アスプルンド。やはり今年になって新任した彼は、聞くところブリタニア本国の伯爵だとか本職は妖しい研究だとか嘘か真か定かではない噂が流れているような男だった。
スザクにしてみれば、何とも情けない姿を見られた嫌な相手。更に彼が口にした意味深な台詞は未だに尾を引いているのだが、気になることはもうひとつ。
(いやに、タイミングがよかった)
思えばあの場所――ルルーシュが隠れていた――は、教室とも食堂とも随分離れている。あの先、生徒が用のありそうな場所は保健室くらいしかない。あとは細々した資料室や要人を出迎える客室くらいだ。
ルルーシュが休み時間の間、教室を離れている間にどこへ行っているのか。流石に尾行するような真似はしないけれど、おそらく、という勘がスザクにはあった。
(……気にしてばかりだ)
最近は寝ても醒めてもルルーシュのことばかり。教室に彼女の存在があればなおさらだ。
しかも質の悪いことに、寸前まで近寄ったルルーシュの顔、息遣い、声がまとわりついては離れなかった。
(………ルルーシュのこと、知りたいなぁ)
こちらを全く見てもくれないくらいだから、その道のりは大変険しいだろうけれど。
しかしどんな印象にしろ、彼女が自分という存在を知ってくれたのは間違いない。ならば方法はいくらでもあるだろう。
とりあえず今は様子を見よう。そして他の女の子たちとの関係の整理もつけなければなるまい。スザクは思う。
まだうららかな日差しが優しく降り注ぎ、じっとり雨が降り続く梅雨に入る少し前の気持ち良い頃合いのことだった。
学園パラレル、番外・初恋編。
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入学式後から5月にかけて。春到来。
きな子/2007.08.14