※にょた注意!スザルル風味。遊び人スザク注意。
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学校の校舎裏。
と、いえば、人気から遠ざかりたい時は恰好の場所であったが、同時に他人様の密会等々なシーンに遭遇してしまう確率も実に高い場所である。
―――例えば。
(………最悪だ)
何だって自分はこんな茂みに隠れ、覗きのような真似をしなければならないのか。否、そもそも先客はこちらだったのに、どうして自分の方が隠れなければならないのか。
心の中で不平不満。しかして身動きが取れないのが実情。
堂々と出ていけばいいではないか。そう思えど、最早そのタイミングは逃してしまっていた。
ルルーシュがこの人気のない場所を見つけたのは、昼休みが始まった頃のことだ。
できたばかりの友人が食堂でご飯を食べようと誘ってきたが、人混みに行く気乗りがしなかったルルーシュはその誘いを断った。同居人たるロイドが勤務している保健室に向かおうとふと窓の外を見た時、なんとなく人目につかなさそうなこの場所が目に入った。まだ不慣れな校内だったが、探検も悪くない…ふらりと来てみたそこは、良い感じに陰になっていて校舎内の喧騒も届かない静かな場所だった。
別にロイドと約束をしていたわけでもないし、ここでひとりで弁当を食べるのも良いかと思い持っていた弁当箱を広げ、平らげたのは先刻のこと。
まだ予鈴まで少し時間があるな……そう思ってルルーシュがぼんやりとしていたそこに後からやって来たのは2人組だった。それも男女の連れ合い。1人は見知らぬ女生徒だったが、もう1人の男子生徒に見覚えがあった。というよりも、同じくラスだった筈だ。―――まだ入学してから日が浅いと、例え同じくラスであろうとも親しくなければわからないものである。
(…確か、枢木―――)
とても言いにくい名前だった。しかもブリタニア人が大多数を占める学園の中で日本人は珍しく、更に彼の名前はルルーシュが知識として知り得てる日本古来の神の名称と同じもので印象的だったのを覚えている。
(スザク)
茶色の毛をくるくると跳ね、人懐っこい笑顔で自己紹介をしていた記憶がある。かといって、特にこれといった接触をしたこともなかった。むしろ今初めて彼を一人のクラスメートとして認識したくらいである。
……が。
(………なっ?!)
男女の2人組。こんな所で出会すには些か気まずい。そう思って反射的に茂みの陰に隠れたのは、失敗だった。
そろり、とルルーシュが隙間から様子を窺えば、2人の影は重なっている。――何をしているかなど一目瞭然。しかも長い。いつまでそうしているのだと突っ込んでしまいたいくらい、長い。
(なっ、なっ、なっ、なっ、なっ……!!)
当のルルーシュはと言えば、濃厚なキスを交わす2人の学生を凝視。しかもひとりは自分と同い年の、同じクラスの、ちょっと童顔で世間知らずっぽそうなところがあるように見えた少年!
思わず声を出してしまいそうになったのも慌てて両手で塞いだ。ばっ!と視線を衝撃的なシーンから逸らしてみたものの、一度見てしまったものは忘れられない。どっくんどっくん言う心臓を自覚しながら、早く行ってしまえ!と祈るように罵倒しながら、ぼそぼそと耳に届く会話。
高い少女の声が何かを言って、答える少年。何を言ってるかまでは聞き取れず―――けれど、後に人が去っていく気配がした。
とりあえず難は免れたと一安心。こんなことは懲り懲りだ…そう思って、ルルーシュは立ち上がった。
がさり、と、迂闊にも注意もせずに。まさか女生徒ひとりだけが去ったなんて思わず、もう一人は残ったままだったなんて考えもせずに。
「あ」
「あ?」
がっちり目が合ってしまった。この場合はそういう問題でもない。
硬直してしまったルルーシュと、突然草っぱらから出てきた少女にスザクもまた驚いたように目を丸くし。しかして、スザクはそんなルルーシュに開口一番、何を言ったかといえば。
「……覗きが趣味だったの?ランペルージさん」
この瞬間、ルルーシュの枢木スザクの第一印象は決定した。
「ふざけるな!」
女性にしては少しばかり低いアルト声が爽やかな空に響き渡る。肩を怒らせた少女は、無礼な発言者をぎっと睨み付けていた。が、睨まれている少年はと言えば、彼女の憤怒を関知している様子がない。
どこか飄々とした態度。“あんな”シーンを覗かれていた(ルルーシュにしてみれば大変腹立たしい言い方ではあるが)にしては、恥じらいのひとつもない。むしろ見てしまったルルーシュばかりが動揺してばかり。外見に似合わず図太いのか?とルルーシュは思ったが、それもちょっと違う。
「意外だね、ランペルージさん。もっと物静かな人かと思ってた」
「…なんだと?」
にっこりと物腰は穏やかなのに、口にする言葉は不穏。ルルーシュは怪訝にスザクを見る。
「初心で可愛いね、って言ったの」
真意を図りかね、ルルーシュは眉を顰める。何を言ってるのかと口を開く前に、スザクに腕を掴まれていた。
「ッ?!はな、」
放せ。最後の一文字を言えなかったのは、スザクの顔が眼前までやってきたからだ。口を開けば相手に息がかかってしまうくらいに急接近され、ルルーシュは反射的にびくりと身体が跳ねた。
そのわかりやすい態度にスザクの笑みは深まる。
「…本当、可愛いね?」
ずい、とまた一歩近付こうとする相手に、ルルーシュは今度こそ「放せ!」と怒鳴り、更に続けた。
「おっ、お前!彼女が居るくせに、こんな…っ」
「彼女?」
きょとん、とするスザクは何のことかと首を傾げ。その態度にまたルルーシュが声を上げれば、「ああ」と納得したようにスザクは説明。
「さっきの子?別に彼女じゃないけど」
「な…っ?!だ、だって、さっき…!」
キスしていたではないか!
声には出さなくとも、スザクだってルルーシュの言ってることはわかる。わかるが、のんびりとした口調でルルーシュの主張を否定。
「だから彼女じゃないけど?」
「へ?」
だって、キス、していたではないか。
「うん、してたけど」
所謂『彼女』ではないのだと。
訝しがるルルーシュにスザクは笑みを絶やさない。それはどちらかといえば人を食ったかのような部類のもので、じとりとルルーシュは嫌な汗が背中に流れるのを感じる。
本能的に察知した危機感は、そうそう外れるものではない。
「なんなら君ともしてみようか?」
「……なんだと?」
ちり、と胸のざわつき。
「だから、キス。してみる?」
ぐっ、と腕を強く掴まれて、引き寄せられそうになる。瞬間、引っ張られたが、なんとかルルーシュは踏み止まる。
ルルーシュは怒っていた。
男のまるで自分を弄ぶような態度は到底許せるものではない。静かに、けれど瞳には苛烈な怒りを宿して。
「私に、触るな」
それは皇女として培われてきた彼女が元来持つ凛然たる様。鋭い視線に晒されたスザクは、ぞわりと背中が粟立つのを感じる。―――しかし、スザクとてそう簡単に平伏すような性格ではなかった。
「…随分と潔癖性みたいだね。こんなに脅えてる癖に、威勢だけはいいんだ?」
「ッ!?」
ぐい、と腕を引っ張られた。細いルルーシュの腕は力足らず、男の力で引っ張られれば当然負ける。怒りで震えながらも、得体の知れない恐怖があるのも確か。しかしルルーシュは決して屈服しようとはしない。スザクが強引な態度に出ればより強固に怒りを露わにしたし、苛烈さは増す。
プライドの高さは一目瞭然。負けず嫌いの気質は、より彼女の持つ棘を鋭くする。男をそそる要素は有り余り、征服欲が沸き起こる。
スザクはかつてない程に煽られていた。欲望に誘われるがまま、そのふっくらとした朱色の唇に吸い寄せられるよう、口付けをしようとして――――
「ッぅ―――――っっっ?!!」
――――下半身に、強烈な抗えない一発を食らった。
「ふざけるなこのクソ野郎!」
皇女様は意外と罵倒の言葉を知っているようである。ついでに足癖も大変悪かった。
「だっ、だからって、男の大事なところを…っ」
前屈みになったスザクは涙目だ。そりゃ、もう、思いっきり急所に一発食らったのだから、立ってるのだって辛い。その姿は見ていてとても情けない。
「当然の報いだ!お前みたいなロクでもない男は滅んでしまえ!」
―――この時ルルーシュの頭の中に某くるくるいかれロールヘアーの皇帝(父親とは断じて言いたくない)の姿が思い浮かんだのは余談である。
「二度とオレに近付くなっ!いいな、オレはお前みたいな男がこの世で一番大嫌いなんだっ!!」
乱暴にスザクの腕を払い距離を取ったルルーシュは叫び、捨て台詞を残して走り去る。
最後の意地でどうにか立っていたスザクだったが、ルルーシュが居なくなったことでそのまま地面へと突っ伏した。
「……いたい」
呟いた声は、涙声。
独り言だった。誰がこんなことを他人に言うものか。しかし衝撃のあまりスザクは第三者の気配に鈍感になっており、まさかこの一部始終を目撃していた人物が居るだなんて思いもよらず。
「大丈夫ぅ?辛そうだねぇ」
けたけたと笑いながら声を掛けてきた人物に、スザクはびくりと振り返る。
そこに立っていたのは馴染みのない顔。色素の薄い少し癖のある髪の毛に、アイスブルーの瞳は透明なレンズを一枚隔てている。白衣を纏ったその人物は愉快そうに「診察してあげようかぁ?」と言ったことから、保健医であると窺わせて。
「ッ……み、見てた、んですか?!」
自分の醜態を。
「もぉ、ばっちりぃ!中々華麗な一発だったね」
満面の笑みはスザクの状況を愉しんでいるとしか思えない。なんて失礼な人物か。大丈夫?と差し出された手を勿論スザクが取るわけがなかった。
「彼女、気の強さは天下一品だしね。あんな風にちょっかい出したら逆鱗に触れるのは当たり前」
まだまだだね、枢木スザク君?
読めない眼鏡の奥。スザクは怪訝に男を見上げる。
「…彼女を知ってるんですか?」
「うーん、知ってるといえば知ってるけど、多分君の聞いてる意味で、とはちょっと違うかなぁ」
「?」
よくわからない返答をする男に、益々スザクの疑念は深まる。
しかし保健医らしき青年はそんなスザクの態度も何のその。彼はスザクを見下ろしながら、にこやかに言い放つ。
「ひとーつ忠告。興味本位で彼女にちょっかい出さない方がいいよぉ?君自身、破滅したくないなら、ね」
誰を敵に回すか、何が敵になるのか、それさえもわかっていないだろう子供への忠告。
ただそこに含まれる私情も半端ないけれど。
青年――ロイドは、スザクの視線を受け止めながら、去っていってしまった人物のことを思い浮かべる。
(…いやーな予感がしてみれば、とんでもないシーンを目撃しちゃったなぁ…‥)
まさか自分の目の届かない範囲でこんなことが起こるとは思ってもみなかった。反省。更に衝撃のあまり動けなかった自分に猛省。
今後、このようなことがないようにしっかりと目を光らせなければなるまい。
―――特に、この枢木スザクという少年は要マーク。
ブラックリストに追加されているとも知らず、スザクはロイドの言葉の真意を量りかね。ロイドは今後どのようにしてルルーシュにまとわりつく虫を排除しようか思案。
一方、ここにいないルルーシュは怒りの余り前方不注意でどっかの茂みに突っ込んだりして――いるかもしれない。
ともあれ、ここから少年の恋は始まったのである。
学園パラレル、校舎裏編。
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何でこんな話になったのかは私が一番不可解。スザルルと無理に言い張るつもりはありません。
因みにこのスザクは僕の仮面を被った若干俺スザクです。若干が重要。これよりへたれ街道まっしぐら。
きな子/2007.06.25