※にょた注意!
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風に乗って、甘ったるい匂い。調理実習室に程近い保健室にそれが届き始めたのは、つい先程のことだ。
(確か今日は殿下のクラスが何やら作るんだと言ってたっけ)
分担して材料を持っていかなければならないのだと同居人が買い出しに出掛けていたのは昨日の話。とすれば、この匂いの発生源はルルーシュのクラスか。
調理実習。といえば、エプロンに三角巾。思い描くのは、あの短いスカートの上にエプロンを羽織って料理するルルーシュの姿。
……下手に暴走しやすい男子学生――無論、思い浮かぶ該当者は茶毛をくるくるさせた某男子学生一人であったりするのだけれど――に、そんな刺激的…基、家庭的な姿、ともすれば未来の奥さんを妄想させるような恰好は見せないで欲しいんだけどなぁとか正直考えてる誰が一番危ないと言えば他ならぬロイドが一番危なかったりするのだが、そこに突っ込む人間はこの場には居ない。
それにしても実に香ばしい匂いだ。これならもう焼き上がっている頃だろう。
(いいなぁ、僕も食べたいなぁ。殿下のケーキ…)
ルルーシュの、と限定なのは仕方あるまい。だって事実として、ルルーシュの作ってた物は何でも美味しい。持ってきてくれないかなぁと淡い期待を抱いてしまうのは当然だろう。
とは言うものの、ロイドは毎朝毎晩ルルーシュの手料理に作ってもらっている。勿論、お弁当もだ。手作り弁当(愛妻弁当といつか彼女の義兄に自慢したらそれはもう酷い目に遭った)を今日も今日とて持っている身で、これ以上贅沢を望んでは罰が当たるかも知れない。
(…お腹空いちゃったし、ちょっと早いけど食べちゃおうかなぁ)
そうと決めれば、ロイドはいそいそとカバンの中から包みを取り出す。丁寧に包んである布をはらりと解き、出てきた漆の弁当箱。お箸を両手にとって(最近、ルルーシュは和食に凝っている為、ロイドも箸の使い方を覚えた。慣れれば便利なものである)作ってくれたルルーシュに感謝するよう頭をペコリ。
「いただきまー」
す、と、言おうとした矢先、背後から扉を叩く音がこんこん。
中途半端な位置で止まってしまった腕。ぎぎぎ、と首を動かして扉を見る。というよりも、睨んだ。
「………はあいぃ?」
せっかくこれからルルーシュお手製弁当を食べようとしていたところを邪魔されて。それはとてもおざなりな声でロイドは訪問者に返答した。―――が。
「ロイド?邪魔するぞ」
と、やってきた人物に、ロイドは「って、殿下ぁっ?」と奇声にも近い声を上げる。
せっかくの食事時に!と思ってたロイドの元へやってきたのは、弁当を作ってくれた張本人。つまりロイドが恋して止まないその人。
慌てて姿勢を正してみたが、彼女はそんなのもお構いなしにずかずか入ってきてはロイドの側までやってきて視線を机の上に止める。じっ、と見下ろした先には今朝方ルルーシュが用意した弁当箱。まだ少しお昼の時間には早いというのにそれを広げているロイドに対して、ルルーシュは「もう昼ご飯を食べてるのか?」と少しばかり怪訝に聞いてきた。
「はぁ…ほら、調理実習室からおいしそうな匂いがしてくるでしょう?つい、食欲が増しちゃったんですよぅ」
まるで子どものような理由なのだが、事実なのだから仕方ない。ついでにロイドは、ルルーシュが手にしているものを見逃してはなかった。
アルミホイルに包まれたそれ。
期待して良いのなら、それは間違いなく。
「……そうか…なら弁当をもう食べるならこれは要らないな?」
「はいぃ!……って、ええぇ?!」
くれるものとばかりに勢いで諸手上げて喜んでみれば彼女は意地悪く微笑んでいる。――こういう顔は彼女の義兄そっくりだ。
殺生な!と泣きつけば、ルルーシュはふっと笑ってから「冗談だよ」とロイドに包みを手渡した。質が悪い冗談だったが、それさえもこの人ならば愛らしいと思ってしまうのは、ある意味とても重症。
「焼きたてだから今が一番おいしいぞ」
「殿下の作るものでしたら何でもおいしいですけどねぇ!」
嬉々として受け取り包みを取るロイド。その様子をルルーシュは呆れながら見ていたが、満更ではなさそうだ。
「パウンドケーキですかぁ?………あれ?」
アルミホイルの下から現れたのは芳ばしさを残したケーキ。実にいい焼き加減。
…と、もうひとつ、それはそれはよく見慣れたカップ。表面はこんがり焼き色、ロイドの推測が正しければ中身はぷるるんクリーム色。
「……あれぇ?」
予想外の代物にロイドは瞬きを繰り返す。答えを求めるようルルーシュを見上げれば、勝ち気な笑み。ロイドを驚かせたことが嬉しかったのだろう。
「材料が余ったんだ。どうせならお前に作ってやろうと思って」
つまり、これはロイドの為に作ってくれたということか。
彼の大好物を、わざわざ。最初からロイドにケーキを持っていこうと考えていた上に、プラスアルファを用意してくれた、その事実。
―――ケーキの横にちょこんとのっかってるプリンが眩しい。
「………殿下ぁ!」
嬉しくって嬉しくって、ロイドはルルーシュに飛びついた。下から首に抱きつかれたルルーシュはといえば「うわっ!」とバランスを崩したがそれを支えるのはロイドの役目だ。
「嬉しいです大好きですルルーシュ殿下!」
「……いや、プリンひとつでここまで……」
「殿下が僕の為にプリンを作ってくれたってことが嬉しいんじゃないですかぁ!僕の大好きなプリンを!」
感激するロイドにルルーシュは若干引き気味だったが、暫くしてから行き場を失っていた手で抱きついてくる大の大人の背中をポンポンと撫でる。大型犬を構うような仕草だったが、それがまたロイドには嬉しい。
ぬくぬくとするルルーシュは柔らかくていい匂いがする。それ以上にその心根が温かいルルーシュに、ロイドは彼女がいい加減にしろ!と怒鳴るまで抱きついていた。
もちろん、ルルーシュお手製プリンは一口一口噛みしめ嚥下する度に感動しながら味わった。
「―――ところで、殿下。プリン、他の誰かにも渡したりはしてないですよね…?」
「え?ああ、結構作ってしまったからシャーリーやカレンたちにもお裾分けしたぞ」
「……スザク君、とかにも?」
「ああ。そういえばアイツもプリン好きみたいだったな…嬉しそうだったし。食後にとっておくって言ってたぞ」
「………へぇ」
件のスザクが無事、大事に大事にと取っておいた食後のプリンを食べることが出来たかどうかは、また別の話。
学園パラレル、調理実習編。
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ルルは生粋のお母さん気質。勿論スザクがプリンを大事にしていたのはルル手製だからですよ。
きな子/2007.06.23