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 すまないと思ってる。
 そんな謝罪、必要ないものなのだと。わかってもらえなかったのかしら?


「………ねぇ、ルルちゃん。私、ルルちゃんのこと好きよ」
 え? とこちらを見たその顔が何だかおかしくて、けれど予想通り。ミレイは口端を上げて、にこりと笑う。
「初めて会った時から、あなたは私にとって守るべき方だったわ」
「それは……」
 その先の言葉をミレイは否定するよう首を振る。
「確かにアッシュフォードはマリアンヌ様の後見を務めていたし、マリアンヌ様の御子であるあなたに私たちが仕えるのは当然のこと。……けれど、違うのよ」
 首を傾げるルルーシュ。
 アッシュフォードがマリアンヌ皇妃に、ひいてはルルーシュに仕えるのは義務。
 しかしミレイにとってはそうではなかった。それだけではなかった。
「…ルルちゃんがナナちゃんを守りたいのと、きっと似てるわ」
「え?」
「いいえ、必死にナナちゃんを守ろうとしてるあなたを見たから、私はあなたを守りたいと思ったのかしらね」
 幼い子供は、自分よりも唯一残された妹を守るのに必死だった。味方だという手にも懐かず、ただ一人で。そして子供の妹へ向けられる愛情のなんたる深さか。
 あの時、ミレイは誓った。
 この子供を守ろうと。きっと、子供の愛情が眩しかったから。失いたくなかったから。守りたかった。
 彼の愛情を一心に受ける妹を羨ましく思ってしまうくらいに、それは綺麗だった。
「ルルーシュ殿下。どうかこのミレイ・アッシュフォードにあなたを守らせて下さい」
 臣下が跪くように。あるいは騎士が傅くように。
 しかし彼女は頭を下げるわけではなかった。守るべき人を、抱擁した。
「ミレイ……」
 そうっとルルーシュはミレイの肩に手をかける。
 ミレイはいつでも大らかな人だ。潔く、それをルルーシュは美しくも思う。
 彼女は姉だった。妹をひとりで守らなければならないと頑なになっていた自分に手を差し伸べてくれた、血は繋がっていなくとも、確かに姉だった。
「……会長、いつまでこうしてるんですか?」
 ふわり、と。ルルーシュの笑った気配。そして彼はミレイを“会長”と呼んだ。
 細い腕を解き、ミレイはルルーシュと視線を合わせた。ミレイが美しく笑みを作れば、ルルーシュの表情は大概決まっている。
「…私、ルルちゃんがそうやって困ったように笑う顔も好きよ」
 そう言えば苦虫を噛みつぶしたような表情に。
「なにぶすくれてんのよ。好きって言われてそれじゃあ、失礼じゃなぁい?」
「会長が変なこと言うからですよ。人が何で困ってるのわかって言ってるんだから、質が悪いってもんです」
「あら、ほんとう失礼しちゃう」
 そう言う子は可愛くないぞ! と頬を拳でぐりぐり押し付ければ、ルルーシュは呆れたように止めて下さいと一歩離れる。
 その距離を瞬間、自分が惜しいと思ってることなんてルルーシュは知らないのだろうとミレイは思う。

(知らなくてもいいわ。知らなくてもいいから、ただ、今は)

 目の前に佇む綺麗な人を見てミレイは微笑む。
 どうかこの人が幸せであれるように。この人が幸せであれば、きっと自分も幸せなのだと。この人が笑って生きていける世界がくればいいのにと、心の底から願わずには居られなかった。




13. 生まれ変わりなんて絶望させるようなこと言わないで




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最後の一文だけ加筆しました。
きな子/2007.06.22(2009.05.31加筆修正)