第三皇女ユーフェミア・リ・ブリタニアは夢見がちな少女だと言われていた。
蝶よ花よと育てられた彼女には温室育ち面が確かにあったが、それは彼女の周囲が望んだ姿でもあった。
特に末の方の姫であったナナリー・ヴィ・ブリタニアと並ぶ姿は、彼女の姉兄(極一部の、ではあるのだが)の心を癒やす光景でもあったのだ。やんちゃで少しお転婆な面も、微笑ましいもの。
だから彼女の腹違いの――ほんの僅かな差でしかないけれど――異母兄は、ユーフェミアの意外な一面に驚きを隠せなかった。
「同じ世界なんて見ることはできないわ。だってルルーシュと私は、他人でしかないんだもの」
この時、ユーフェミアの少し寂しそうな笑みの意味にルルーシュが気が付いていたら、彼女の心に芽生えていた気持ちにも気付くことができたのかもしれないけれど。
「ユフィ…?」
「いやだ、他人ってそういう意味じゃないのよ?」
先の言葉をフォローしようとするユーフェミアに、ルルーシュは「それはわかってるよ」と言う。
個人としての話。大事な家族に代わりはない。
ユーフェミアはルルーシュに問う。
「ねえ、ルルーシュ。ルルーシュにとってお姉様はどんな存在?」
「え?」
突然何だ、と訝しがるルルーシュにユーフェミアは笑って答えを待つ。
「…それは……頼れる、姉上だ。チェスの相手をしてくれるし、ナナリーのこともとてもよく可愛がってくれる。…たまに厄介な事を言われるし俺が困る様を見て楽しんでいらっしゃる姿は頂けないが……尊敬する姉上だが…?」
途中、話しながら何か思い出したのか眉を顰めたルルーシュにくすくすと笑いながらも、ユーフェミアは「じゃあ、」と続ける。
「クロヴィスお兄様は?」
「今度はクロヴィス兄上か?……そうだな、少し困ったところのある人だが、兄上の描く絵は好きだよ」
「とても優しい絵で、私も好き」
「ああ。ちょくちょくアリエス宮にも来て下さるし……ただ、もう少し執務の方にも精を出してくれるとありがたいのだが……」
ユーフェミアはころころと喉を鳴らす。
「それではシュナイゼルお兄様は?」
流れから次の人物は予想していたのだろう。直ぐにルルーシュは答えを口にする。
「シュナイゼル兄上は俺たち兄妹の面倒をよく見て下さって、感謝してもしたりないさ。それに相変わらずチェスは勝てないし、兄上には敵うものがない。いつかは、と思うが……尊敬、してるよ」
ただ純粋なそれ。
ユーフェミアはまるで慈愛に満ちた瞳でルルーシュを見つめていた。
(……でもルルーシュ、シュナイゼルお兄様とコーネリアお姉様、クロヴィスお兄様がルルーシュを見守る視線の意味は違うわ)
コーネリアとクロヴィスは純粋に異母弟を案じている。一方のシュナイゼルの視線はそれだけではないことをユーフェミアは知っていた。どちらかといえばユーフェミアと似ている。だから気付けたのかもしれない。
「それじゃあ、ナナリーは?」
「本当に何なんだ?……ナナリーは…そうだな、コーネリア姉上にとってのユフィだ。俺の大事な妹だよ」
もちろん、お前もだ。そう付け加えてくれたことをユーフェミアは嬉しく思う。しかし満足ではなかった。おそらく満ち足りることは有り得ないのだろうけれど。
「ね、同じ世界なんて有り得ないと思わない?」
「……は?」
唐突に結論。
しかし今の流れからどうしてそうなるのかがルルーシュはわからない。
「ルルーシュにとってのお姉様、クロヴィスお兄様、シュナイゼルお兄様、ナナリーは、私にとってのお姉様、お兄様、ナナリーとは違うもの」
「それは……」
「私にとってルルーシュはルルーシュで、ルルーシュにとって私は私。同じ世界を見ることなんてできないの」
(だってルルーシュは知ってる?私が今、あなたとこうしているだけで世界はとても優しいの)
些か困ってしまったらしい異母兄をユーフェミアはふふと笑う。そうすればルルーシュは眉を下げて曖昧な笑みを零す。
「…ユフィはたまに想像もつかないことを言い出す。…敵わないな」
「お褒めに頂き光栄です、お兄様?」
戯けたようにそう言えば、ルルーシュは吹き出す。顔を見合わせて、二人は声をたてて笑った。
(……でも、ルルーシュ)
ユーフェミアは愛しい人を見ながら、心の中で思う。それは祈りにもよく似ていた。
(同じ世界ではなくても、一緒に世界を見ることができたのならば、それはとても幸せなことだと思うの)
12. 同じ世界など見えなくて良いのです。
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ユフィルル。好きな人が居るだけで世界は美しく見える。
きな子/2007.06.17