憧れているんだ。
目を輝かせて言ったその言葉には嘘偽りなどなかっただろう。
ただ、その気持ちを正しく推し量るには少し足りなかっただけ。
「シュナイゼル殿下がお見えになる?」
スザクの問いかけに、ミレイは「そうよ」と鷹揚に頷いた。
その表情は実に嬉しそうなもので、隣では彼女に好意を寄せるリヴァルが苦味を潰したような顔。さすが、その美貌で知られる第二皇子。アッシュフォード学園が誇る女傑も美形の権力者には弱いのか。
そんなことを思った一同だったが、彼女のご機嫌は別のところにあったらしい。
「ルルーシュ、嬉しそうだったでしょう?」
「は?……確かに、今日のルルーシュはどっか浮き足立ってたっけ…」
リヴァルが宙を仰ぎ悪友の様子を思い出す傍ら、その背後ではシャーリーやニーナが「確かに…」と同意している。スザクもまた話題のその人の様子を思い浮かべた。
嬉しそう、浮き足立って、綴られた彼の人の様子。確かにそうだった。ルルーシュにしては珍しい、ご機嫌。
そこに、第二皇子というキーワード。ルルーシュの兄。兄上。それが指し示しものは。
「ルルちゃんてば、昔からシュナイゼル殿下のことをお慕いしていたのよねー。そりゃもう可愛かったんだから!口を開けば、シュナイゼル兄上が、シュナイゼル兄上は、って妬けちゃうくらいよ。殿下もルルちゃんのことはご兄弟の中でも特に気にかけていらっしゃったみたいだし。」
そんな第二皇子の到来。ルルーシュが喜ぶのも無理はない。
締められたミレイの言葉に、スザクはなんとなく鈍器で頭に一発食らった気分。
ルルーシュが第二皇子を慕い、第二皇子もまたルルーシュを気に入ってる。
そのことはスザクもまた知っていた。―――嫌、というほどに。
「……あら、お見えになったみたいね」
ミレイの言葉と、前方に見えたふたつの影。出迎えの為に駆ける姿と、そんな彼を抱き止める姿。重なった2人に、スザクは身を強張らせた。
「―――シュナイゼル兄上!」
「久しいね、ルルーシュ。…ああ、よく顔を見せてはくれないか?うん、やはり実物を見ないと安心できないものだ。綺麗に育ったな」
「あっ、兄上…!」
目の前で繰り広げられる光景への反応は、多種多様。
見慣れた光景にニコニコ満足していれば、悪友の意外な表情に呆然、想い人の柔らかい顔にぼぅっとしてしまったり、或いは並ぶ美少年と美丈夫のやりとりに見惚れてしまったり。因みに幼なじみが兄にいいよう……頭を撫でられ頬にキスされ抱き締められたりしている姿を見た少年はといえば、かっちんこっちんに固まってしまっている。
「兄上、本国の方は大丈夫なのですか?」
「心配することはないよ。全て滞りなく、上手くいっている。お前が遠い地から私を助けてくれるお陰だ」
内緒話のように囁きあう。その姿に周囲から黄色い奇声が上がったとかあがらなかったとか。
しかし彼の皇族方は外野など眼中にも入ってないよう平然と密着しながらの会話を続ける。というよりも、片方がしっかりと華奢な体躯を抱擁して離す素振りがないというのが二名の正しい状況判断であったのだが、捕らわれている方も全く腕を取り払う様子がない。むしろ当たり前のようにそうしているのだから、多分に彼らにとってはそれが極普通の体勢なのだろう。
皇族は矢っ張り違うのか、一般庶民の皆さんはそんな適当な感想でスルー。地たたら踏むのはこっそりルルーシュ殿下に憧れ抱いていた男子生徒諸君。女子生徒の殆どはむしろ眼福ものである。
そんな外野は関知せず(若干片方は気付いてる節があれど、見せつけるには良い機会程度にしか思ってはいまい)好奇の目に晒されるのも何のその、2人の世界は続行中。
しゅん、と項垂れたのは、黒髪の皇子殿下。目を伏して頭を下げれば、理想の身長差。
「お側でお役に立つことができず、すみません…」
「何を言う。お前とナナリーをこの日本に、アッシュフォードに預けたのは他ならぬ私。それはお前たちの安全が第一だったからだ。確かにお前たちが私の側に居ないことは、私としても寂しいことだ。が、それももうすぐ終わる」
「兄上…?」
因みにこのやり取りは周囲には聞こえてはいない。
……が、五感がやけに発達していたスザクには筒抜けだったりする。
兄の顔を窺うようなルルーシュを、スザクはといえば青醒めた顔で凝視。
「あともう少ししたら、お前たちを本国に呼び戻せる。ナナリーの安全も確保しているし、ルルーシュ、安心して私の傍に帰ってきなさい」
「あに、うえ……」
可愛らしく呟かれるその人を呼ぶ声は、信頼と敬愛に満ちている。
再び、スザクは頭に鈍器が一発。なんたって、古い付き合いなのにあんな顔スザクは見たことない……正確には、スザクには見せてはくれない表情!
「ああ、でもお前にも事情があるだろう。私としては一刻も早くルルーシュとナナリーには戻ってきてもらいたいとは思っているが、お前とてこちらの生活は手放し難いのだろう?ユフィが羨ましがっていたよ」
それは奇怪なイベントの多い愉快な学園生活のことか。
「しかし、これ以上ワガママを言うわけには…」
「なに、これまでを思えばあと少しの辛抱。またお前が私の傍に戻ってきてくれると思えばこそ、私はできる限りお前が望むようにしてやりたいのだよ」
「兄上……」
ルルーシュの表情はうっとりと兄を見上げている。慈悲深い兄の優しさに感動しているとしか見えない。
確かに、確かに、確かに!
温情溢れる態度、情け深くも異母弟を案じる兄の愛情、なんて弟想いのお兄さんだろうか!
けれど、だけれど、どうあったところで、スザクの目には胡散臭さしか見えない。あの眩しい笑顔が実に詐欺臭い。なんたってあの第二皇子は自分の上司と化かし合える仲なのだ!
(騙されてるよルルーシュっ!!)
だってどう見てもルルーシュを絡め取ろう算段だ。連れ帰ったら最後、二度とルルーシュを傍から離すことはしまい。
じわりじわりと真綿でくるむよう。
外堀を埋め尽くして、あとは中を陥落させるだけ。しかもこの様子だと、もう殆ど陥落したも同然じゃないか!
「ルっルルっルルールルーシュ!!」
思わず叫んでいた。しかし反応は呼ばれた当人より傍らに居た男の方が早いとはこれ如何に。
(つまり勝敗は既に決していた?)
「おや、君が枢木君か。いつもロイドから話は聞いているよ」
「は?」
いつもルルーシュから、ではなくて、上司たるロイドから?
お兄様、ちゃっかり牽制は怠らない。
「ちょうど良かった。ランスロットの乗り心地はどうだい?君はこれ以上ないというくらい優秀なデヴァイサーらしいね。漸く特派も君のような人材を得て安定したことだし、今後もこの地で技術躍進に励んでくれたまえ」
「……え?」
―――つまり、外堀たるは自分もしっかり首輪を嵌められていたらしい。
憧れているんだ語った人が居た。
他の誰にも渡すまいと手に入れようとしていた人が居た。
気付いた時にはもう届かないことに気付けなかった人が居た。
さて、彼らが持て余したそれに名付けるとしたら?
05. その感情はただ、恋でしかなかったのだ
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ルルが乙女過ぎた。シュナルルにするにはまだ匙加減が掴めない。
きな子/2007.06.13