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「ケッコン?」
「クロヴィスおにいさまがおしえてくれたの。だいすきな人とずっといっしょにいたいなら、ケッコンすればいいんだよ、って」

「だからね、ルルーシュ。ユフィとケッコンして?」

「ケッコンすればぼくとユフィはずっと一緒?」
「うん!ずっと、いっしょ」



 だから誓いましょう。
 良きときも悪きときも、健やかなるときも病めるときも、いかなるときもあなたを愛します。
 死が2人を分かつまで。










「ねえ、ルルーシュ。ルルーシュは覚えてる?」
「何を?」
 ことり、とカップを置く。用意された焼き菓子は甘さを控えてあるから、自然と手が伸びてしまう。
「私とナナリーがルルーシュのお嫁さんを取り合ってケンカしてたこと」
 ふふっ、と笑み。思い出話にはいつでも花が咲く。
「……ああ」
 思い出して、懐かしいな、と目を細め。
「実はナナリーとはそれだけでしかケンカしたことないのよ?」
「間に挟まれた俺は2人とも大泣きするものだから宥めるのに大変だったけどな」
 少しばかり大袈裟に肩を竦めれば、こちらも心外だと言わんばかりに澄まし顔。
「だってお姉様とシュナイゼルお兄様が私たちは結婚できないんだって言うものだからとても悲しかったんですもの」
「兄妹だから」
 端的で、明快。
「そんな理由、私にはわからなかったし、初めてお父様を恨んだのもあの時よ」
「ユフィ」
 父親、つまり時の皇帝に不平を露わにしたのは恐らく初めてのこと。
「だってルルーシュはとても優しくって、私とは全然違うマリアンヌ様譲りの黒の髪がとても綺麗で、紫色の瞳は宝石みたいで大好きだったのよ。私はナナリーみたいにずっと一緒に居られるわけでもないし、それならマリアンヌ様に生んでもらってずっとルルーシュと一緒に居たかったとさえ思ったわ」
「……姉上が聞いたら悲しむよ」
 妹姫を心の底から慈しんでいる、戦姫。同腹でも異腹でも、彼女を慕う気持ちは共通。
「ええ。だから今はそんなこと思ってないし、お姉様の妹でよかったと思っています。…ただ、ナナリーと同じ理由でルルーシュと結婚できないのに、私はナナリーよりもずっとルルーシュと一緒に居る時間が少ないことが悔しかったの。だからついナナリーともケンカしちゃった」
 思い出を語る姿は、少し恥ずかしさが交じる。
「ナナリーもなかなか負けず嫌いだしね」
「誰かさんとおんなじね」
「………俺は別に……」
 ふふ、と軽い笑い声は、お見通しと言わんばかり。
「ダメよルルーシュ。シュナイゼルお兄様に負けていつも悔しそうなの、ちゃんと知っているんですから」
「……クロヴィス兄さんの癇癪よりはマシだ」
「ほら、そういうところ」
 指摘すると、まるで苦虫を噛み潰したような顔。
「……ユフィ」
 恨みがましそうな視線も、何のその。くすくすと笑い声は絶えない。
「だってルルーシュが素直じゃないんですもの。そういうところはナナリーを見習わなきゃ」
「………」
「ナナリーはとても可愛いわ。つい羨ましくて嫉妬しちゃうくらい、とても素直で良い子」
 2人が慈しむ年少の妹姫、守るべき存在。
「……他でもないユフィにそう言ってもらえたら、ナナリーは本当に喜ぶだろうな」
 妹姫も腹違いの姉姫をとても慕っているから。
「ふふ、ナナリーがルルーシュじゃない人のところへお嫁にいくことになったら、きっととても大変ね」
 冗談を軽く言えば、心の底から嫌そうな顔。まだまだこれからが花盛りの妹姫を嫁に出すなど到底想像さえできることではなくて。
「嫌なことを考えさせないでくれ。第一、そういう意味ではユフィ、君だって姉上が大変なことになるだろうさ」
 そこらの男よりも余程、猛々しく勇ましい彼女だから、妹姫の婿選びは難航すること必至。
「そうかも。……もし私がお嫁に行くようなことになったら、お姉様にも、ルルーシュにも、ナナリーにも、お兄様たちにも祝福して欲しいわ」
「……ユフィが本当に好きな人を見つければ、大丈夫だよ。姉上も、ナナリーも、兄上たちもみんな祝福する」
 風がふわりと間を抜け、カップ半分になった茶の水面が仄かに揺れた。
「もちろん俺もだよ。君が幸せになるのを、祝福しないわけないじゃないか」
「ありがとう、ルルーシュ。ルルーシュが一番好きな人をお嫁さんする時、私もめいっぱいお祝いしますからね」
 力強い応援には、目を泳がして。
「………うん、まあ……」
 誤魔化すかのように、焼き菓子をひとつ摘んで、ぱきんと口の中で割る。
「そんな煮え切らない態度だとお嫁さんきてくれませんよ! もっとしゃきっとしてないと!」
「……ユフィは自分からプロポーズしてしまいそうなくらいだな」
 今にも乗り出してしまいそうな雰囲気に、ついぽろり。目をぱちくりと一瞬だけ考える素振り。答えは直ぐに出た。
「本当にずっと一緒にいて欲しい人だったら、自分から言ってしまうかもしれませんね」
「勇ましい限りだ」
 そこは姉姫と似ていると言っていいものなのだろうか。
「ふふ、大丈夫。ルルーシュの応援もしっかり任せて下さいな!」
「……それは頼もしい限りだ」


 クスクスと笑って他愛もない会話。
 甘い香りが風に乗った、とある昼下がりの話。



優響5題/5.午後三時





きな子/2007.10.18