貴方より早く起きてキスをする



 初夏。
 薄手の毛布一枚が気持ちよい。沈むスプリングに身を任せていた体はまだ眠っていて、意識だけが醒めた。
 枕元で鳴る目覚まし時計の煩わしさは毎朝のことながら慣性の動きでそれを止める。
(6時、じっぷん……………)
 重い瞼を堪え、朦朧とする視界で時刻を確認すると定めた睡眠の刻限が迫っている。
 んん、と唸りながら、体を動かそうとすれば、毎朝感じる重みは今日も健在。一本の逞しい腕が胸のあたりに伸びていて、ぐっと体を捩ればそこには見慣れた寝顔。
 微睡む意識でぼうっと至近距離にある顔を眺めて。見飽きた筈の顔でも、寝顔は幼い頃を思い出させてくすぐったい気分になるし、無遠慮に見つめ続けたところで相手はそんなこと露知らず。何よりも視線を交わさずに済む。相手の透き通った翠緑の瞳は好きだけれど、それにじつと見つめられてしまうとどうしたらいいのかわからなくなってしまうのだ。
(………かわいい)
 くるくると跳ねた栗毛の髪。健康的な肌色。伏せられた睫。(その下に世界で一番好きな色が眠っている)筋のきれいな鼻。うっすらと開いた唇。
 こんな風に相手の顔をまじまじと見ることができるのなんて、この朝の一時くらいのものだ。
 まだ広がらない視界には、相手の顔だけしか存在しない。
 ……と、そのとき、また時刻を知らせるアラームが鳴る。先に設定した時刻の五分後を知らせるもの。
(……………朝飯と、弁当……)
 その前に顔を洗って、着替えて。
 行動の算段を頭の中で組み立ててみると、もうタイムリミットだ。起き抜けはどうしても思考が真っ当に働かない。ただ重いだけの体にどうにか活を入れて、気持ちの良すぎる布団から這い出る気力を絞り出す。
 そっと柔く抱かれていた腕を外した。
 反応はない。そのことにほっとする。せっかく気持ち良さそうに寝ているのを、起こしたくはない。毎朝のことながら、この瞬間がいつも一番緊張する。
 今日も無事にこの腕から抜け出せたようだ。ただ、ただ布団に投げ出されるだけになってしまった腕が寂しく見えてしまって。
 詫び、と言うわけでもないけれど。
 決して伸びた腕を下敷きにしてしまわないよう慎重になりながら再び布団に身を落として、晒された寝顔にそっと顔を近づける。
 うっすらと開いた唇。浅い、規則正しい呼吸が聞こえた。無性に安心する心地を覚え、つい目元と口元が緩んでしまう。
 やはり刺激にならないようにと、触れるか触れないかの唇を頬に落とした。

「………おはよう、スザク」

 まだ寝ている相手に一足先に朝の挨拶を送って、ルルーシュはベッドから離れた。




きな子/2009.05.30