▽幼少みっつめ。お兄ちゃん。

「チェックメイト」

 こつん、と駒が動く。
 子供の実力は本物だった。


「………負けだ、ルルーシュ。相変わらずお前は強いな」
「兄上は戦略が典型的なのです。キングが動かなければ、他も動きません」
 義弟の指南に、クロヴィスは肩を竦めた。
 8つ下の弟は実に頭が良い。
 チェスに関しては初めて手合わせた時から敵わなかった。その点に関しては自分の兄も認めている。
 最近では直ぐ上の姉までもこの義弟に目をかけているという噂を聞いている。あの姉が実妹以外を相手にすることなど珍しいとも思ったが、その妹が彼と彼の妹に執心との話を聞けば、納得いく。
 そういう自分もまた、こうして彼に付き合っているのだから、人のことは言えないかもしれない。
「それは兄上の教えか?」
「……シュナイゼル兄様は何も教えてはくれない」
 それを言うなら、チェスの相手すらしてもらえない己の方だ、とクロヴィスは思う。
 直ぐ上の兄は自分が認めた相手以外はチェスを打つことすらしないのだ。相手をしてもらっているだけ、ルルーシュは認められているということだ。現に、彼は兄に相手をしてもらってから格段に成長している。
 そのことに少し、寂しさを覚えた。が、何に対してのものかはわからない。
「最近では姉上とも交流があると聞いたが?」
「…一度、機会がありまして。それ以来、よく面倒をみてもらっています」
 機会?とクロヴィスは繰り返していた。
 あの姉とそのような機会を持つきっかけに興味を覚えたからだ。
 その呟きに対してルルーシュは珍しくも口籠もる。
「ユーフェミアが……」
 ルルーシュと同い年の妹。規律正しいコーネリアに対し、奔放な妹姫の姿を思い出し、納得がいった。
 クロヴィスも妹のことは可愛いと思っている。彼女がルルーシュとコーネリアを結び付けることを想像するのは容易かった。
「そうか。ユフィは元気にしているかな?最近、あまり見ていないからな」
「元気すぎて困るくらいです」
 今日もナナリーの面倒をみていることだろう。どうやら、彼女は自分が姉としてナナリーのことを構うことが楽しくて仕方ないようだ。その飛び火かはわからないが、ルルーシュに対しても姉のように振る舞うユーフェミアに、ルルーシュは苦手意識を持っていることを隠そうともしていない。(そもそもルルーシュは人付き合いが苦手だ)
 同い年なのに、と不平をこぼすルルーシュにクロヴィスは微笑ましい気持ちになる。
 可愛い弟と妹たちが仲良くなることは嬉しいことだ。特に煩わしいことばかりがつきまとう中(特にこの弟の風当たりが強いことに嘆かわしく思う)こうした話を聞くのは嬉しい。

「ところでルルーシュ。チェスの相手をしたのだから、今度は私の相手もしてくれたまえ」
「……僕ひとりを描いたところで、何が楽しいのか僕にはわかりません」
「そう言うな。私は美しいものが好きなのだ」
「………」
「またマリアンヌ皇妃とナナリーも連れてきてくれると私は嬉しいぞ、ルルーシュ。君たち親子は実に絵になる」
 そう言えば、ルルーシュの目元が僅かに弛む。
 彼が母親と妹姫を至極大事にしていることは、彼を知る人間なら誰でも承知している。
「……また、機会があれば。母とナナリーは兄上の絵を気に入っておりましたので…、」
「おや、お前は気に入ってはくれていないのか?」
「…揚げ足をとらないで頂きたい。……僕も、兄上の絵は好きです。優しい、から」
「ありがとう、ルルーシュ」

 それはたおやかな、午後の一時。