▽とりあえずの前置きというか、基本のシスコンルルーシュ。




 ブリタニア帝国、第17位皇位継承権を持つのは、麗しきマリアンヌ皇妃の嫡男ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。
 彼らは皇族たちの住まうアリエス宮に身を置いていたが、ある一定期間、与えられた領地へと赴くことがあった。それは首都よりも南に下った、長閑な湖水地帯にある。
 ―――主であるマリアンヌ皇妃は、その美しさで知られていた。
 温厚且つ領民を愛するその様は、弱肉強食を基盤とするブリタニア皇族の中でも異色だ。出は庶民、しかし騎士候の位を持つ彼女は実に聡明であり、民を思う治世は領地を豊かにした。領民に慕われるのは勿論のこと、国民の支持もある。
 そして皇子であるルルーシュも、まだ幼い皇女、ナナリー・ヴィ・ブリタニアも愛らしい子供たちであった。



「ナナリー、ナナリー!」

 美しい庭園。主の為にと手入れされているこの薔薇の咲き誇る庭園は、ブリタニア国内の中でも一等の美しさを誇っている。
 そんな中を、幼いルルーシュは駆け回っていた。
 最愛の妹を呼ぶ声は、いささか焦りを含んでいる。メイドや庭師、臣下に擦れ違うたびに「ナナリーを見なかったか?!」と切羽詰った表情で問い詰めている光景……は、実際のところただの日常茶飯事に過ぎない。
「ルルーシュ様、ご安心ください。ナナリー様ならば、乳母が湖の方にお散歩へ行かれておりますよ」
 心配は一切ない。
 大人がそう優しく諭したが、ルルーシュはきっ、と回答をした使用人を睨んだ。生憎とルルーシュは聞き分けのよい子供ではない。
「湖?!もし乳母が目を離した隙にナナリーが水にでも落ちたらどうする!もしかしたら湖に刺客が潜んでるかもしれないじゃないかっ!!」
 湖、と言っても居城の領内である。無論、衛兵の目は届いているのだし、警備とてそう簡単に突破されるほど甘くない。
 内部犯ならともかく、外部犯が早々と侵入できる場所ではない。
 が、ルルーシュにとって問題なのは、つまりそういうことではなかった。目の届く所に最愛の妹がいないことが、問題そのものなのだ。
「ナナリーにもしものことがあったらどうするんだ!」
 母親の出が庶民で、他の皇族に疎まれている。ルルーシュは幼いながら、それを肌でひしひしと感じ始める年頃だった。自分が好奇の目に晒されていることは、公の場に出ればあからさま。聞こえよがしの陰口までも耳に届けば、怒りを通り越して辟易してくるというものだ。
 自分の身に降りかかることならばいい。しかし最愛の妹に、火の粉が及んだら?
 幸いなことに、ナナリーはまだ幼く、社交の場に出る必要はない。が、それもあと2、3年すれば必要と迫られることとなるだろうし、それまでだってどんなことがあるかわからない。
 しかもルルーシュの妹なのである。本人は気づいてないが、ルルーシュはその優秀さから第二王子、第三王子、さらには第二皇女にまでも目を掛けられている。それが直ぐ上の義兄姉、或いは下の義弟妹やその母親に嫉妬心を燃やさせ、さらに王宮内で風当たりを強くしていたのだが、生憎とそこまでは気づいていない。性格の悪い兄姉弟妹、としかルルーシュは認識していなかった。
 どちらにせよ、彼らの毒牙にかかってナナリーが辛い思いをするのは絶対に許せることではない。
 何があってもナナリーのことは自分が守る。
 それは妹が生まれたそのとき、母親にも誓ったことだ。
 実際、ナナリーは実に可愛らしい子供だった。まだ幼くとも、さすがに美しさで知られているマリアンヌ皇妃の娘である。将来の美貌は約束されたように整った顔をしているし(因みにそれはルルーシュにもいえることである)しかも素直で聞き分けの良い子だ。頭も良い。
 こんなに出来の良い皇女なのだ。成長すれば、あの性格の悪い連中に妬まれるのは必然。ルルーシュは当然のようにそう思う。
(だから僕が守ってあげなくちゃいけないんだ!!)
 ナナリーを守ってあげられるのは、自分だけだ。
 そう力強く心に誓って、再びルルーシュは最愛の妹を探すために走り出した。