ルルーシュ・ランペルージ、本名ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアは真剣に悩んでいた。
どこからどう悩み始めたのかわからなくなってしまうくらいに、混乱の境地に居た。雁字搦めだ。懊悩の極みだ。
彼は今まで、こんなに頭を痛ませたことはない。チェスのようなゲームなら朝飯前だし、大国相手に戦争をしかけよう時だって、策ならばいくらでも思いつく。自分がどうしていいのかわからなくなるなど、人生初めての経験だ。
そんな彼の頭は現在、枢木スザクというひとりの青年に占められていた。
悩む青少年
「鬱陶しいぞ、ルルーシュ」
暫くの間、2人には会話がなかった。が、それは割と日常の光景であり、珍しくもない。
その光景自体は珍しくないのだ。
ただし、ルルーシュが部屋にいることは割と珍しい。その上、何か作業をするわけでもなく、ただじっと机の前に座っていることも珍しい。更には挙動不審な態度で「あー」だの「うー」だの「くそっ」だの、部屋にいるC.C.に話し掛けるわけでもなく(本人は声に出している自覚もないのだろう)、ひとり悶えてる姿は一層珍しかった。
同室に居るC.C.にしてみれば、迷惑なことこの上ない。しかもこの珍しい光景が続いてるのだ。
いい加減、飽き飽きして。C.C.は辛辣な一言から口を切った。
「ここ数日、お前はまるで苔の生えた石みたいにじめじめしているな。見ているだけで鬱陶しい」
「…煩い。ならお前が出て行け。ここはオレの部屋だ」
そう言いながらも彼は彼女のことが眼中にないのか。自分の部屋だ、と言いながら、そもそもルルーシュはC.C.が居座っていることに頓着していなかった。正しく言えば既に諦めていた。
今だって出ていけと言いながら、自ら追い出そうとする気配はない。
まさに心ここにあらず、だ。
その原因に思い当たる節があるC.C.は、ベッドの上でピザを一切れずつ頬張りながら、彼女もまたルルーシュのことなど気遣う様子なく続けた。
「いい加減、素直になれ。お前はあの男のことが好きなのだろう?いつまで悩んでいる」
「何のことだ。俺にはお前が何を言ってるのかが理解できないな」
「面倒な男だな、お前も。私にはお前が何に拘っているのかが全く理解できない」
それほどに悩むことか。とっとと認めてしまえばいいじゃないか。
畳み掛けるように言うC.C.に、流石にルルーシュも知らぬ素振りができなくなったのか。或いは、我慢が出来なくなったのか。
「うるさいっ!いいから黙ってろ!!黙れないなら、出てけ!」
「往生際の悪い。痛いところを突かれたからといって怒鳴るな。これだから男は嫌だ」
みっともないぞ、ルルーシュ。
口の周りにはトマトソースととろけたチーズ。しかし反抗すらも寄せ付けないC.C.に、完全に現状の力関係は決していた。
目の前で黙り込んでしまったルルーシュに対して、悠々とピザを食していたC.C.は何を思ったのかベッドの脇にと移動する。トマトソースのついた指を一本ずつ舐めながら、何でもないようにC.C.は「ギアスを使えばいいじゃないか」と、言った。
「幸いなことにまだあの男にギアスは使ってないのだろう?ならば本音を聞き出すか、或いはお前の思うようにすればいいじゃないか。どうせ相手は覚えていないんだ。お前の好きな男を、自由にできるのだぞ?」
それは誘惑のように。
他に一切、音のない部屋。彼女の声だけがよく耳に響く。
「ふざけるな!誰がそんなことを…っ」
「がなるな、耳障りだ。お前はあの男が欲しくないのか?欲しければ手に入れればいいだろう。力があるのだろう?何のための力だと、お前はかつて言った?」
尋問のように続けられるC.C.の言葉を前に、ただルルーシュは押し黙る。
怒りなのか戸惑いなのか、とにかく感情を持て余している表情。
何かを言い返そうにも、何も出ない。拳をきつく握り、力の行使を主張したC.C.を険のある視線でただ睨むだけだ。
そのままルルーシュはC.C.の問いに答えることなく、但し反論を言うわけでもなく部屋から出ていった。
「…逃げたか」
主の居なくなった部屋にひとり残されて。…と言っても、今ではこの部屋で1日を過ごすのは彼女の方が長い。
使い慣れたベッドにダイブして、残りのピザを摘んだ。
「難儀だな、人の世というものは。……それにしても、本当にルルーシュは気付いてないのか?」
決して、自分の口から言おうとは思わなかったが。
ルルーシュが悩むこととなった渦中の人物、枢木スザク。彼の態度も、相当にわかりやすいものだった気がする。
本人たちよりも周りの方が気付くとは、なんとも厄介なものだ。
「………本当に人の世とは難儀だな」
ふふふ、と笑いながら、彼女は好物のピザを頬張っては、静かになった部屋に満足していた。
2006.11.23
207β
さま、片恋15題 『6.惚れろ!!』