ゆーびきり、げんまん、うそついたら、針千本、のーます。
ゆーび、切った!
小指と針千本
「それじゃあ、次の休みに買いに行こうよ。とちおとめ。」
その一言に、ルルーシュがぴんっ、と喜色ばんだことを、スザクは見逃さなかった。
事の始まりは、ショートケーキだった。
ミレイが用意したケーキを生徒会一同で頬張りながら、午後のティータイムを過ごしていた時だ。
いつものように賑やかな場の中で、スザクは目敏く幼なじみの変わらない嗜好を見出していた。
(……ルルーシュ、まだ苺好きなんだ…!)
何気ない動作だったが、生クリームの上に乗せられた丸ごとの苺は最後の方に大事に残しておきながら、間に挟まれてる苺までをも実に美味しそうに頬張っている。
それはとてもささやかな仕草で、他の生徒会メンバーには気づかれていないし、ルルーシュもまた悟られないように気遣っているのだろう。それでも苺を食するルルーシュは本当に嬉しそうで、最後に丸ごとの苺を食べる時なんて、スザクの方が見ていることを悟られないようにするのが大変だった。
あまりに微笑ましい光景に懐かしさを覚え、スザクは自分が笑ってしまいそうになるのを必死で抑え、食後、片付けを始めようとするミレイたちに自分がやると言って、そそくさとこの場を離れた。
そのあとの食堂では、素早くテーブルを片すスザクに呆気にとられる一同が残されて。
「……どうしよう、スザク君の手伝い、した方が…?」
「…いいわ、ルルーシュ。手伝ってあげなさい。今どき、男だって家事ができなきゃ、いい旦那にはなれないわよ」
「んじゃ、俺もー……」
と、立ち上がったリヴァルは、ミレイに襟首を掴まれて「あんたは仕事に先戻る!予算作り終わってないんだから、ちゃっちゃとやるわよ!」とそのまま連れて行かれた。
そうして、キッチンにはスザクとルルーシュが並んで後片付けをする姿があった。
「ゴメン、ルルーシュ。僕、ひとりでやったのに…」
「別にいいさ、これくらい。ところでスザク、何かあったのか?突然、片付けなんて…」
スザクが他人を気遣うことは珍しくも何ともない。ただ、突然、普段ミレイ達が当然のようにやっていた後片づけを替わると言ったり、慌ただしくそれをするスザクの様子がいつもと違うことは、ルルーシュとて気付いていた。が、その行動の理由がわからない。
かちゃかちゃ、と食器を洗いながら、スザクはルルーシュの問いに「あ…、うん、」と答えた。
その曖昧な返事に首を傾げたルルーシュだが、一拍置いてスザクがまた口を開く。
「ルルーシュ、まだ苺、好きだったんだね」
「………なに?」
「僕、なんだか嬉しくなっちゃって……ルルーシュ、変わっていないなぁ、って…」
少し頬を紅潮させて、そんなことを言い出すスザクに。ルルーシュは持っていた皿を落としはしなかったものの、手は止まった。
ルルーシュって昔から本当に苺美味しそうに食べるよね、あ、でも大丈夫だよ?他の人たちにはバレてなかったし、うん、よく見てないと僕も気付かなかったくらいだよ、ルルーシュが苺好きだったって。
「…………」
「あれ、ルルーシュ?どうしたの?」
黙ってしまったルルーシュにスザクは彼の顔を覗きこむ。
その行為に固まったままだったルルーシュは、口を一度開くが声は出なかった。
「ルルーシュ?…あ、ひょっとして違った…?僕の勘違いだったとか…」
「ちっ、違う!」
反射的に否定して、しまった、とルルーシュは思う。
誤魔化しておけばいいものを!とも思ったが、基本的にルルーシュはスザク相手にはどうしてか嘘がつけない。それは昔からだ。
一方で、即座に否定を示したルルーシュにスザクは一瞬きょとんとした表情を見せたが、次第に笑顔とまたなった。
「よかった」
「っ……、」
ぐうの音も出ないとはこのことか。ルルーシュは狼狽え、内心で渦巻く葛藤に翻弄される。
して、その行き着いた先は。
「―――…………でも、スザクの家で食べたのが一番おいしかった……」
「え?」
「子供の時、お前の家で出されたのが、俺は一番好きだ…」
顔を真っ赤にさせて、スザクの方を向いてはいない。が、ぽつぽつと言うルルーシュに、スザクは「苺?」と聞いた。
そうするとルルーシュはこくんと頷く。
「そっかぁ。多分うちで食べてたのは、とちおとめだと思うよ」
「とちおとめ?」
「うん。栃木県産の、真っ赤で甘くて美味しいんだよ」
その説明に、ルルーシュは反応する。子供の頃の大好物を思い出したのか、どこかそわそわしているようにさえ、スザクには見えた。
アシュフォード学園は基本的にブリタニア人の学校だ。イレブン産の食糧がそう簡単に出されることはないし、校内に身を置いてるなら尚更、普段の食卓には縁遠いものだろう。
今は特に物流もブリタニアに管理されている現状だ。わざわざ買い付けに行かなければ、早々と食べられる代物ではないのかもしれない。
「…それじゃあ、今度、買いに行こうか?」
「…何だって?」
「次の休みの時にでも買いに行こうよ。懐かしい味の苺」
その提案に、ルルーシュは今までの恥じらいをかなぐり捨てて、食いついた。
「行くぞ!い、いや、ナナリーだって食べたいと思うし、」
「うん、ナナリーにお土産もいっぱい買ってあげようよ」
「ほ、本当に?」
「勿論。ちょっと遠いけど、たまにはこういうのもいいよね」
「お前、軍の方とか…」
「大丈夫だよ。言えば、一日くらい休みはもらえると思うし…」
スザクが思い浮かべるのは、妙に読めないけれど気の良い上司と、いつでも穏和に面倒を見てくれる女性。彼らならば、頼めば一日くらい、羽を伸ばすことを許してくれると(何とも甘い考えだが)思う。
そんなスザクの様子に、ルルーシュもまた可能性の高さを悟ったようだ。
「…………絶対、だぞ?」
「うん、絶対」
約束、とスザクは言う。
ルルーシュはしばらくの思案の後、何か思いついたように指をスザクへと向けてきた。
「?ルルーシュ?」
「指きりだ。この前、ナナリーに教えてもらった。日本人は約束をするとき、こうするのだろう?」
それは、確かにそう言った習慣もなくはない。が、どうやらルルーシュの思っているのは些か違ってる気もしたが、スザクは「そうだね」と笑ってルルーシュの小指に自分の小指を絡めた。
「いいか、嘘ついたら針千本だからな」
「………命懸けだなぁ…」
あまりに真剣なルルーシュの様子が、却って微笑ましい。
何だ、とむっとするルルーシュに、スザクは何でもないよと返した。
小指一本。それでも触れてる指先には、感じる相手の温度。
「じゃあ……指きりげんまん、」
軽くお互いの手を揺らす。
「嘘ついたら、針千本のーます」
ルルーシュの真剣な表情に、スザクはにこやかだ。
「指、切った!」
さて、次の休みの日が楽しみだ。
2006.11.23
207β
さま、片恋15題 『5.命懸けの指きりげんまん』