四六時中、一緒にいることなんか望んではいない。
子供の時のようにはいかないのだし、それが無理なことも理解していた。
世界が広いのだと知ったのは、君と別れてからだ。あまりの広さに君を見失って、それでもまたこうして、君と共に過ごせる日がくることをどれほどに切望しただろうか。
そうして、初めて知ったこともあった。
しあわせのひと欠片
ルルーシュが職員室に呼び出され、スザクに理科準備室へ一緒に行けなくてごめん、と謝って来たのはついさっきのことだ。
スザクがアシュフォード学園にやってきてからまだ日が浅く、校内の地理がわからないだろうということで暫くはルルーシュが面倒を見ていた為だったが、まるで子供が迷子にならないかを不安がる親のような顔にスザクは笑って「大丈夫だよ」と応えた。実際もう殆ど地図は頭に入っていたのだし、あらかたの場所は案内も終わっている。
ルルーシュもスザクが迷うことはないとわかってはいたのだろう、が、念のためと言ってリヴァルやシャーリーに一緒に行くよう言ってくれたし、至れり尽くせりな彼の行動には苦笑さえしてしまった。
それだけ彼が自分を気にかけてくれることは勿論嬉しく思ったが、幼い頃、彼の手引いていたのは自分の方だったことを思い出すと、何やら複雑だ。
そんなことを考えながら、新しくできた友人たちと移動していたスザクは、ふと、窓の外を見る。
広大な敷地を有するアシュフォード学園は、校舎がH型になってる為、他の教室が向かい側によく見える。但しその中庭も勿論広く、向かいが見えると言っても、誰がいるかを認識できるかくらいだろう。
そんな中、スザクはつい数分前に別れた友人の姿を見つけた。
(ルルーシュ?)
どうやらまだ職員室には着いていないらしい。思案顔で廊下を歩いてるルルーシュは、上の階から自分を見ているスザクには気づいていない様子だ。
(…何か、難しいことを考えてる?)
あれはそんな顔だ。表情の癖は変わっていない。
「なーに見てんの、スザクってば」
「うわっ」
すると、がばっ、突然肩を叩かれてスザクは声を上げて窓端へとよろめいた。
リヴァルがそのまま窓を覗き、横でシャーリーが「外に何かあるの?スザク君」と聞いてくる。
ルルーシュを見ていた、と口にするのはなんとなく気が引ける。
どうせリヴァルが目敏くルルーシュを見つけるだろうと思ったが、思いの外、ちょうどルルーシュは壁に隠れてリヴァルには見つからなかった。
「誰もいないじゃん。何、見てたんだよー?」
そんなに自分は食い入るように外(正しくはルルーシュ)を見ていたか、とスザクは思うが、ここは曖昧にしておこうと苦笑する。
「…いや、……天気がいいなと思って…」
「あ、本当。雲ひとつないねー」
「んだよー。可愛い女の子でも見てんのかと思ったんだけどなぁ…違ったのか。ちぇ!」
そうだったら面白かったのになー、と呟くリヴァルに、スザクは首を傾げる。シャーリーは「リヴァル!」と声を荒げた。
「スザク君はあんたとは違うの!もう、バカ言ってないで早く行くよ!」
長いブラウンの髪を揺らして、シャーリーは先に背を向けて歩き出してしまう。そうすればリヴァルが「はいはい」と着いて行き、そのあとをスザクが追うような形だ。
2人のやり取りがなんだか微笑ましくてスザクは口元にだけ笑みを浮かべながらも、彼らの後に着く。そしてまた、無意識にも窓の外に目をやっていた。
(あ、)
柱を通り過ぎた、またルルーシュの姿。
意識的なつもりは一切ないのに、どうしても目が追ってしまう。
(……目立つんだよね、ルルーシュって。いつも。)
それは対外的なことを言ってるつもりだったが、スザクにしてみれば客観的に判断するのはとても難しいことだった。スザクの視界に彼が居ようものならば、スザクは確実に彼を追う。ルルーシュは誰もが振り返る美形だと思うが、その筆頭が先ず自分なのだ。
スザクの世界の中で、ルルーシュという漆黒を纏った人は、いつも特異な存在だった。
(……あ、先生)
位置的に職員室の近くだろうか。
スザクの視界に居たルルーシュは先ほどの思案顔からは一転、人当たりの良い笑みを浮かべている。声をかけてきたらしい(勿論、ここからあそこの音が聞こえる訳がない)教師に対して、何か頼まれごとでもされているのだろうか。生徒会副会長らしいが、スザクはルルーシュがそれらしく働いてる姿をまだ一度も見たことがない。
(相変わらず、営業スマイルがうまいなぁ…)
教師に対するルルーシュの笑顔。幼い頃から大人を手玉にとっていた手腕は、より一層、磨きがかかっているらしい。
何やらルルーシュは事をうまく処理したのだろう。遠目で見てるだけでわかるそんな様子にスザクは声には出さず笑みをこぼしていた。
が、息を吐く音が聞こえていたのか。シャーリーが振り返って「スザク君、いま笑った?」と首を傾げて聞いてきた。
その後にリヴァルがからかいを含んだような声で「天気が良いもんなー」とスザクを振り返らずに続ける。先程の件を、揶揄しているのだろう。
その投げかけにきょとんとしながらも、スザクはどこか清々しい、沸き上がる幸福を実感していた。
「…うん、本当に。良い、天気だから」
そう言って、スザクは今日初めて窓の外、上空を見上げた。
空は雲一つない、晴天だった。
2006.11.16
207β さま、片恋15題 『1.君が見えた』