ぱっ、と手を開いて、またぐーに握る。
幾度か繰り返しながら、そんな自分の手を見ているルルーシュに、スザクは「…何してるの?」と聞いた。


うららかなる


「……いや、お前の手は……昔と変わってないのか?」
「は?」
疑問に疑問で返された。しかもそれは本人が答えることは難しい気がする質問内容ではないだろうか。
スザクはルルーシュの疑問に首を傾げ、更に「どういうこと?」と質問をした。
「……さっき、手を掴まれた時」
「?うん?」
さっき、とはルルーシュが屋根からずり落ちそうになった時のことか。
「お前に手首をしっかりと掴まれた」
「…うん?」
何が言いたいのか。いまいちよくわからないから、スザクはルルーシュの次の言葉を待つ。
「昔は同じ大きさだった筈だ」
「……は?」
やっぱりまだ何が言いたいのかわからない。
しかも心なしか、納得いかない顔をしている気がする。口先が少し尖っているというか、眉も気持ち程度に顰めていないか。
スザクにとってルルーシュの表情を察することは、実に容易いことだった。それは七年という年月を経ても、当たり前のように変わっていない。
「大体、ナナリーだって直ぐにお前だってわかってたじゃないか。それはつまり、変わってないと言うことだろう?」
「う、うーん……」
肯定か否定か、曖昧な返答。
結局のところ、ルルーシュは何が言いたいの?と、聞いてみたいが、素直にそう聞くには何か抵抗がある。
相も変わらず手を握っては開いてを繰り返しているルルーシュに、質問に質問で返すのをスザクは止めにして、「じゃあ、」と提案を投げかけた。
「ルルーシュ、手、出して」
「なに?」
「だから、手」
言った傍ら、ずい、と自分のそれをスザクは差し出す。握手を求めるような形で差し出されたスザクの手に、ルルーシュは予期せぬ展開に驚いたのか。暫くの躊躇の後、ぽつりと「……お前の考えることは矢っ張りわからない」と言いながらも、渋々と手を差し出してきた。
その態度は、スザクを妙に満足させる。
(うん、でも、ルルーシュも変わらないよね)
沸き上がる充足感を自覚して、スザクはそのままルルーシュの手と自分の手を合わせた。流石にルルーシュもそうなることはわかっていたのだろう、握られたことにはとかく反応せず、スザクの「どう?」という質問に生真面目な顔をして悩んでいる。
「………ごついな」
その感想に、ついぷっと噴き出していた。
「当たり前だよ。子供の時とは違うからね。ルルーシュの手だって昔よりごつくなってるじゃないか」
「当然だ。……違う。そういうことじゃない。俺が言いたいのは、こういうことじゃなくてだな、……」
何やらひとりでぶつぶつと言い出したルルーシュは、じぃっと握られた双方の手をまじまじ見詰めている。その様子は真剣そのものであり、ルルーシュが何を言いたいのかを全貌までとは言わないが心なしか察し始めたスザクは(自分で提案したこととはいえ)こそばゆさが全身を這い上がってきた。
ルルーシュの視点が変わる様子はない。その先、握っている相手のスザクのことなど、今は殆ど意識していないだろう。
(…本当、変わらないね)
自然と口元が弛んでいた。微笑みでもあり、苦笑でもある。
声には出していないのだから、当然ルルーシュはスザクの笑みにも気付いていない。そのことに少し詰まらなさを覚えて、それと同時にそろそろ自分のことも意識して欲しい。ついでに言うなれば、自分のすることのない現状を打破したくもあった。
「ルルーシュ」
「何だ」
「……恥ずかしい、んだけど?」
「……………」
暫しの、沈黙。
「…そうだな」
いい年をした青年が、意味もなく手を握り合っている図は、何かが妙だ。
凝視していたことは自覚しているのか「悪い」と言って手を放そうとするルルーシュを、…スザクは放さなかった。
「ッ、スザク?!」
放せと言ったのはお前だろう!といった抗議の声をあげるルルーシュに、スザクは内心で(別に放せとは言ってないんだけどな、)とぼやきながら。
握った手に力を込めて、言った。
「ルルーシュの手は、変わってないよ」
「ッ、スザ…」
「昔とおんなじだ」
その瞬間、ルルーシュの眉が不自然に歪んだ気がしたが、それも緩やかに変化する。
「そうだな……、」と同意したルルーシュの顔は、昔を懐かしむような。そんな表情だった。
「お前の手も、変わらない」
握った手の温もりから、幼少時代の思い出が蘇る。別れよりも遡り、一時の甘い思い出。
確かに優しい日々があった。共に過ごした彼と、また共に在るという事実に今はただ酔いしれる。
「ねえ、ルルーシュ」
「何だ」
「もう少し、このままで居てもいい?」
少しだけ間を置いて逡巡する様子もあったが、それでもこくりと頷くルルーシュ。
笑うスザクに、ルルーシュも笑う。

少年の頃を思い出すように、指を絡め直して、手を繋いだ。





某方に捧げました。/ 2006.12.17